「まあ、内容によるだろうけどな。翠の発言は、いつもびっくりするようなことだらけだから。馴れてる」


あたしは息を飲み込んだ。


言わなきゃ。


これは、あたしの人生最大の賭けだ。


どっちに転ぶかなんてわからないけど。


答えはふたつにひとつだろう。


補欠が離れて行ってしまうか。


それとも、こんなあたしを受け入れてくれるか。


答えはどちらかひとつだ。


離れてしまうのなら、それはそれでしかたない。


甲子園を目指す補欠の夢を、あたしごときが奪ってはならない。


それは、このあたしが一番、誰よりも分かっている。


握りしめたペットボトルから、ぽたぽたと連続して水滴がしたたりおちた。


言わなきゃ。


言う!


あたしは意を決して、背筋を伸ばした。


「補欠。あのな、あたしっ」


補欠が目を大きくした、その時。


「あーっ!」


キーッ、とタイヤがアスファルトを摩擦する音が耳をつんざいた。


とっさに振り向くと、公園の入り口に引き返して来る一台の自転車。


「翠さーん! 、と、夏井先輩」


人懐っこく笑って、自転車から飛び降りて右手をぶんぶん振る、野球部。


「翠さーん!」


全開の笑顔で向かってきたのは、補欠の後輩で一年生野球部の岩崎勇気(いわさき ゆうき)だった。


その人懐こい笑顔に、一気に気が緩んだ。