なんだ、この男は。


花菜ちんの彼氏みたいに、残念がってくれてもバチはあたらんだろう。


あたしは補欠を睨んで、さらにしつこく抱き付いた。


「やだって言ってんだろ! 絶対離れん!」


はあ、とため息をついた補欠のわき腹を両サイドから、結衣と明里がど突いた。


「夏井ー、連れてってやれよ、A組によー」


「はあ?」


「翠、離れたくねえっつてんべよ」


そうだそうだ。


もっと言ってくれ、結衣、明里。


「あ、そういうことか。響也とクラス離れちゃったんだ。翠ちゃん」


そうなのだよ、花菜ちん。


「それでこんなことになってんのか」


補欠にしがみつくあたしを見つめて、イガグリが笑った。


「笑うな! イガグリ!」


笑いごとじゃない。


これは、笑えないことなのだ。


「そうなんだよ……さっきからずっとこの調子。ガキじゃねえんだから」


困ったように笑って、補欠があたしの髪をそっと撫でた。


胸がきゅうっと締め付けられる。


その時、予鈴が鳴り響いて、掲示板前の人だかりが次第にはけて行った。


「じゃあな、花菜。また後でな」


岸野くんがすたすた歩いて行く。