あたしの事は、どうでもいいんだ。


ただ、補欠のことは、一緒に応援してくれる?


これから先も、ずっと。


涼子さんが花束をぎゅっと抱き締めて、涙と一緒にしっかりと頷いた。


「だって、私……夏井くんのファンだから」


どうしてだろう。


「ありがと!」


秋に同じセリフを聞いた時は嫉妬して、ヤキモキして、嫌でたまらなかったのに。


今は、どうして素直に嬉しいと思えるんだろう。


嬉しくて、心強いのはどうしてなんだ。


あの頃より痩せて、ひとまわり小さくなったあたしの強敵。


憧れのライバル。


大切な、戦友で先輩。


あたしの精一杯の想いを詰め込んだ花束を抱き締めて泣くその姿を見て、ようやく確信した。


ああ、そうか。


そうだったのか、あたし。


あたし、この人に相当憧れてるんだ。


涼子さんの隣で若奈ちゃんが、教室の入り口を見つめて「あ」と小さな声を漏らした。


泣き続ける涼子さんは何も気付いていない。


振り向くと、そこにはスポーツバッグを背負った本間先輩の姿があった。


若奈ちゃんと目が合う。


若奈ちゃんはふんわりと微笑んで、涼子さんの側を静かに離れた。


「ありがとう。ありがとう、翠ちゃん」


こんな綺麗な花束見たことない、そう言って、涼子さんは花束に小さな顔をうずめた。