あたしは花束ごと、涼子さんの胸に飛び込んだ。


涼子さんが、あたしを抱き止めた。


「翠ちゃん」


「……なんで、こんな寂しいのかな」


花束を包む透明なフィルムに涙が落ちて、はじけた。


窓辺に、3月の優しい陽射しが射し込んでいた。


「補欠をとられると思って悔しくて」


あの日、涼子さんが現れた日から、毎日気が気じゃなかった。


あたしを抱き締めながら、涼子さんがすすり泣いていた。


「だって、涼子先輩、美人だから」


かなわないって、思ったから。


美人なのに鼻にかけることもなくて、儚げなのに芯がつよくて。


ライバルに、優しくて。


他の先輩たちは陰口ばかりなのに、涼子さんだけは真っ正面から体当たりしてくれたから。


だから、この人には勝てないんじゃないかって。


本音でぶつかってきてくれる、唯一の先輩だったから。


こんな素敵女子に勝てるわけないって、心のどこかでいつも思っていた。


「廊下ですれ違うたびに睨んだりして、ごめんね」


「気にしてないよ」


涼子さんの優しい声は涙で霞んで、今にも消えてしまいそうなほどか細かった。


「あっかんべーして、ごめんね」


そんな事をしても、涼子さんはいつもクスクス笑っていた。


あたしが全力であっかんべーをしても、余裕で大人で。


涼子さんだけだった。