「補欠ー!」


「……うわっ」


「聞いてくれ、補欠! あのな、あのな」


クラス中の視線が、あたしと補欠に集中する。


「……ちょっ、バカ! 離れろ!」


補欠が顔を真っ赤に煮えたぎらせて、教室内をキョロキョロ見渡す。


クラスメイトたちがニタニタしながら、あたしたちを見ていた。


「今な、下でな」


「離れろって。まじで恥ずかしいって」


抱きつくあたしの手を掴んで、補欠がわっと声を漏らした。


「冷て! 何でこんなに冷えてんだよ」


振り向いた補欠が、溶けた雪でびしょ濡れのあたしを見てぎょっとした。


「……水浴びでもしたのか?」


「え? あああ、これか?」


あたしは濡れた髪の毛を掴んで笑った。


「ちょっと訳ありでな」


「ひとりで雪遊びでもしたのか? 風邪引いたらどうすんだよ」


あたしを離して、補欠はスポーツバッグからタオルを取り出し、


「寒いだろ」


わしゃわしゃと髪の毛を拭いてくれた。


柔軟剤の優しい香りが、あたしを包み込む。


「で、どうしたって?」


髪の毛を拭きながら、補欠が微かに笑った。


「ああ! あのな、下で涼子さんに会ってな」