あたし、物凄い強敵と戦友だったんだ。


上履きを履き替えようとしているその小さな後ろ姿に、あたしは声をかけた。


「ヘイ、そこの素敵女子!」


涼子さんが振り向いて、プッと吹き出した。


「これ!」


あたしはハンカチをブンブン振って、笑った。


お涼。


おぬしに、この気持ちは届くかね。


「Grazie! (ありがとう)」


日本語は照れくさい気がして、わざとイタリア語を使った。


さすがに分からんだろうと思いきや、涼子さんは勝ち誇ったように微笑む。


「Prego!(どういたしまして)」


どうだ、それ見たことか、と涼子さんが胸を張った。


やるな、素敵女子。


イタリア語で返してくるとは。


さすが、戦友。


あたしを悩ませた、最強のライバル。


「バイバーイ」


あたしはハンカチを握りしめてゴミ箱を小脇に抱えると、あっかんべーをした。


「涼子先輩!」


そして、くるりと背を向けて、中央階段を一気に駆け上がった。


三階まで、一段飛ばしで、一気に。


そして、そのまま教室に駆け込んで人目もはばからず、補欠の背中に抱きついた。


ゴミ箱をドーンと床にぶん投げて。