「ちょっと、サヤカ!」


そんな言い方ないじゃない!


その声が、誰も居ない廊下に響いた。


「悪い子じゃないよ、あの子!」


「え……ごめ……」


友人がぎょっとして立ち止まる。


まさか、涼子さんが声を荒げるなんて、彼女は思いもしなかったのだろう。


あたしもびっくりした。


「いい子なのよ! あの子のこと、悪く言わないで!」


あたしはふたりの華奢な背中を見つめながら、ハンカチをぎゅっと握った。


少し、泣きそうになった。


顔を合わせるたびあっかんべーをするような、あたしを。


いつも生意気な態度ばかりとり続けた、あたしを。


なぜ、そんなに堂々たる態度で「いい子」だと言い切れるのか、不思議でたまらなかった。


「サヤカだって、話してみれば分かるわよ。真っ直ぐで、とってもいい子なんだから」


「そう……なの?」


ふに落ちない態度の友人を見て、涼子さんがフフッと肩をすくませて笑った。


「そうなの。口は悪いけど、すーっごくいい子。きっと、みんな好きになるよ」


その時、あたしは初めて気付いたのかもしれない。


あたし、お涼のこと、けっこう好きだったんだ。