またか。


近頃、こんなことはしょっちゅうだ。


常にいつも、というわけではないけど。


掴んだはずの物がない。


あたしは最近、空気を掴んでばかりいる。


「あの……翠ちゃん」


不思議そうな表情を、涼子さんはしていた。


「大丈夫?」


「あ! まじでなんともないから。じゃあね」


今度はちゃんとゴミ箱を掴んで涼子さんをかわした時、


「……えっ」


あたしは、初めて、何かを確信した。


あたし……変かも。


真っ直ぐ歩いているはずなのに、まるで何かに手繰り寄せられるように左へ左へよろけてしまう。


軌道を修正しても、また。


修正しても、また。


一向に壁を右に曲がることができない。


「なんだ……」


あたしは壁にもたれて、立ち止まった。


……絶対、変だ。


「ちょっと待って」


「へ?」


涼子さんが生真面目な顔をして、あたしの体をぐいっと引っ張った。


それで、ハッと我に返った。


「どうしたの? 何か……変だよ。翠ちゃん」


具合悪いの? 、と涼子さんが眉間にしわを寄せ集める。