涼子さんの優しさが逆にあたしの首を絞める。


あたしはぶっきらぼうに、彼女から離れた。


「まじでいいから!」


ゴミ箱を抱えて、あたしは駆け出した。


階段へ続く曲がり角を曲がろうとした瞬間、鈍痛が顔面に走った。


ガン!


「翠ちゃん!」


涼子さんの声が耳を抜けた時、あたしは壁に全速力で突っ込んでいた。


顔が破けたんじゃないかと思った。


頭がくらくらする。


「ぎゃーっ!」


あたしはゴミ箱を放り出して、豪快に後ろにぶっ飛んだ。


どっしりと尻餅をついたあたしに、涼子さんが慌てて駆け寄って来る。


「大丈夫?」


「ぐはあーっ……」


痛いなんてもんじゃない。


これは、顔面を骨折してしまったかもしれん。


息ができないほどの激痛が、全身を支配していた。


「保健室行こう」


涼子さんが、そっとあたしの肩を抱いた。


「いい! 平気! こんなの唾つけときゃ治るし」


痛みを必死に我慢して、ゴミ箱を抱えて立ち上がった。


……つもりだった。


「……え……あれ?」


でも、あたしが掴んだのは空気。


掴んだはずのゴミ箱は、まだ床の上に同じ状態で転がっていた。