本間先輩が熱で火照った視線を、涼子さんの瞳に落とす。


「そろそろ、振り向いてもらえませんか? おれのこと……見てくれませんか?」


粉雪に埋もれてしまいそうになりながら見つめ合うふたりから、あたしはそっと目を反らした。


空を見上げる。


「しんどいなあ……」


ふと、小さく口から漏れたのはため息と、正真正銘、あたしの本音だった。


あたしの恋心が、今、目の前にあるふたつの恋心に傷を負わせていたのかと思うと、しんどくなった。


胸が締め付けられた。


あたしが補欠をずっと見つめていた時。


もうひとつの空間で、涼子さんも補欠を見つめていて。


そして、その隣の空間では、本間先輩が涼子さんを見つめていた。


恋というものはなんて複雑に絡み合っていて、しんどくて、健気なものなんだろう。


「おれのこと、見てもらえませんか?」


本間先輩が言ったその時だった。


背中にぞくりとしたものが走り、鼻の奥がムズムズしたと思った瞬間、


「はっ……べっくし!」


あたしは、思いっきりくしゃみをしてしまった。


ハッとした時にはもうすでに時遅し。


「誰?」


涼子さんの慌てた声が、耳の奥に到達していた。


やっちまった。


なんてこったい。


あたしのバカ。


なんだってこんな時に、なんてデリカシーのない事をやっちまうんだ。


あたしはとっさに身を縮こめて、ゴミ箱を抱き締めた。