「ちょっと、離して……」


涼子さんが困った顔をして手を振りほどこうとすると、本間先輩はますます力を強くしたように見えた。


「おれも、一年の時からずっと、涼子さんだけ見てました」


純白の粉雪が、ふたりを包み込むように降り注いでいた。


「涼子さんが夏井を見てた時も、同じように、おれも見てました。ずっと」


「ちょっと、本間くん。離し……」


涼子さんを、本間先輩がぐいっと引き寄せる。


まるで、運命の赤い糸を手繰り寄せるかのように。


「本間くん……あの……」


「いつまで待てばいいですか!」


「……」


降りしきる粉雪が、涼子さんの長い睫毛に触れてさらに細かく砕け散る。


本間先輩の広い肩幅に、さらりと積もった粉砂糖。


あたしは必死にゴミ箱を抱き締めていた。


動けなかった。


とくん、とくん、とくん。


静かになった雪空の下。


あたしの心臓が切なさに泣いていた。


キーンコーンカーンコーン。


静かな空間に、個性のない午後のチャイムが吸い込まれて行った。


本間先輩の低い低い声は、とても切なそうで、こっちにまで苦しさが伝染してくる。


「涼子さん……おれ、もう、限界っす」


本間先輩が、涼子さんの腕を掴んだまま低い声を絞り出す。


「おれじゃ、ダメですか?」