涼子さんが静かにうつむく。


「なら、もういいでしょ。涼子さん」


うつむく涼子さんの細い手を、本間先輩はしっかり掴んだ。


涼子さんが弾かれたように顔を上げる。


「離して」


「諦めた? それ、本当なんすか?」


本間先輩が少しバカにしたように鼻で笑うと、涼子さんが「え?」と真顔になった。


「とか言って、そんなの綺麗事なんじゃないんすか? 本当はまだ好きなんじゃないんすか?」


涼子さんの顔色が一変した。


鋭い目つきになって、本間先輩を睨み付ける。


「離してくれる? 正直言わせてもらうけど……しつこい」


本間先輩が背中を丸めた。


それで、ようやく分かったような気がした。


彼は、涼子さんのことが好きなんだ。


気付いたら、急に後ろめたくなった。


あたし、もしかして、見てはいけないものを見ているんじゃ……ないか。


「離して」


涼子さんが乱暴にその手を振りほどいた。


「ごめんね。しつこいなんて言って」


「いえ」


「今、誰かを好きになるとか、付き合うとか、考えられなくて。そういう気になれない」


ごめんなさい、小さく添えてきびすを返した涼子さんの腕をぐいっと引っ張って、本間先輩が大きな声を出した。


「じゃあ、いつになったらそういう気になるのか、教えて下さい!」