「は? ちが……そんなんじゃなくて」


急に顔を茹だらせた補欠をドンと突き飛ばして、


「昨日だ! 昨日、事件はここで起きたのだ」


あたしはにべちゃんに詰め寄った。


「補欠に奪われてしまったのだ! あたしのふあっ……」


ファーストキス。


「ふがふがふがっ……」


補欠の左手がとっさにあたしの口を塞いだ。


「何でもねえ! つうか、余計な事しゃべんな」


「ふがーっ」


「翠! ちょっと黙って。頼む」


「ふが」


あたしは素直に抵抗をやめて頷いた。


茹でタコのように真っ赤になった補欠が、ほっと胸をなで下ろす。


「頼むから、大人しく待ってて」


「しょうがねえな。待ってる」


ほっとした様子で、補欠は健吾とにべちゃんに両サイドから質問責めに合いながら、廊下を歩いて行った。


補欠の背中を見つめていると、背後から肩を叩かれた。


「良かったね。おめでとう、翠ちゃん」


うっとり顔のあっこだった。


「やや! サンクー」


あっこはにっこり微笑んで、その背中を見つめていた。


おそらく、あいつだ。


あっこが見ているのは、健吾の後ろ姿だった。