「念を押して言うけれど……今から見ることは、絶対に喋らないで欲しい」

「分かっている。たとえマクシム王に尋ねられたとしても口には出さない。約束する」

 一瞬の躊躇も見せず、レオニードが言い切ってくれる。
 これだけ実直な人だからこそ、彼の言葉を疑わなくてもいい。
 そう思うと、みなもの顔に薄く笑みが浮かんだ。

「うん、信じているよ。だから俺がこれからすることも、信じて見ていて欲しい」

 無言でレオニードが重々しく頷くのを確かめてから、みなもは小瓶へ視線を戻した。
 
 懐にしまっていたケガの処置に使う小さなナイフを取り出すと、右の人差し指の先に刃をあてる。
 ひんやりとした金属の冷たさが指先に広がる。
 胸の動悸に合わせて、指先まで脈打っているのが分かった。

 みなもは息を止め――指先に一線、赤い筋を作る。
 鋭い痛みとともに熱が指先へ湧き上がり、さらに親指で押して雫を作っていく。
 その赤い滴を、二滴、三滴と小瓶の中へ落としていった。

 レオニードから息を呑む音が聞こえてきた。

「君の血が材料になるとは……」

 血を押し出すのを止めると、みなもは小瓶の蓋を閉め、軽く上下に振った。

「俺たち一族の血は薬に混ぜれば万能薬にもなるし、毒に混ぜれば自然にある材料では癒せない厄介な毒にもなる。これを悪用されないために、ずっと一族は血の秘密を守ってきたんだ」

 自分たち『守り葉』が守るべきものは、『久遠の花』だけではない。
 一族の知識と技術、己の中に流れる血。そして――。

 みなもは睫毛を伏せると、長息を吐き出した。

「将軍が受けた毒には、一族の血が使われている。だから俺の血でなければ相殺できない」

 こちらが意図した答えを察したのか、レオニードの声が一段と低くなった。

「つまり、毒を作っているのは――」

「……そう。間違いなく俺の仲間が、バルディグの毒を作っているんだ」