二階の部屋に戻ると、浪司がいつものように「よっ、お帰り」と顔を上げる。
 しかし、みなもの表情を見るなり、浪司は緊張した面持ちを見せた。

「こんな短時間に何があったんだ? この世の終わりが来たような顔してるぞ」

 変に思われないよう、なるべく普段通りにしようと意識していたのに……。
 それだけ動揺が大きいのかと自覚しつつ、みなもは軽く乾いた唇を舐めてから口を開いた。

「ちょっと特殊な薬を作りたいんだ。浪司、誰かが覗きに来ないよう、部屋の前で見張っていてくれないか?」

 できれば秘密を知る人間は少なくしたい。
 ただ、一緒にここまで来てくれた上に手伝いまでしてくれる浪司へ、無下に追い出すようなことを言いたくはない。

 遠回しに見ないで欲しいという意図を匂わせてみる。
 それを察してくれたのか、浪司は渋るどころか疑問すら口にせず「分かったぜ」と言ってくれた。
 外観は鈍そうな熊男だが、意外と察しがいい。

「ネズミ一匹も見逃さねぇから、安心して作れよ」

 浪司は頼もしさを漂わせながら、みなもたちと入れ替わるようにして部屋を出て行く。

 扉が固く閉ざされ、一気に部屋が静まり返る。
 かすかにクツクツと大壺の中で薬が煮立つ音が、みなもの止まりそうになる思考を動かしてくれた。

 みなもは部屋の棚から中身のない小瓶を手に取ると、大壺の所まで行き、小さな柄杓で薬をすくう。
 そして溢れないよう慎重に小瓶の中へと注ぎ、近くの机へコトリと置いた。

 深呼吸してどうにか気持ちを落ち着けると、みなもはレオニードへ視線を流す。