どう話を持っていけば良いだろうかと、みなもが考えていると――。

「みなも、俺のことは信用できないのか?」

 背後からのレオニードの声に、みなもは目を丸くする。

 確かにヴェリシアの人間の中で、彼がどんな人なのかは一番よく分かっている。
 自分が知る中で、数少ない信じられる人。
 信じたいと思わせてくれる人。
 
 けれど、知られたくない。
 これ以上、自分の都合に巻き込んで、レオニードを振り回したくない。

 薬師の誰かを選ぶか、レオニードを選ぶか。
 頭の中が目まぐるしく動き、胸中の天秤も大きく揺れ動く。

 考えて、考えて――みなもは、藥師たちに向き直った。

「……私はレオニードのことを信じています。みなさんも信じていらっしゃるなら、彼に解毒剤の調合に立ちあって監視してもらう、というのはいかがですか?」

 机の周りを囲んでいた藥師たちがざわめき、動揺が広がっていく。
 老藥師も一瞬だけ面食らったような顔をしたが、すぐに表情を険しくさせる。

「レオニードのことは我々も信じているが、彼は専門の知識を持っていない。入れられた物が分からなければ意味はない」

「私が作ろうとしているのは、今ここで作られている解毒剤に、ある物をひとつ加えれば作れます。それは専門の知識を持たなくても、一目見ればそれが毒ではないと判断できる物です」

 低く唸ってから老藥師は「ちょっと待ってくれ」と一言断り、他の藥師たちと話し合いを始める。
 しばらくして藥師たちがまばらに頷くのを受け、老藥師はみなもと目を合わせてきた。

「分かった、条件を呑ませて頂く。悔しいかな、我々では即座に有効な解毒剤を作ることができぬ。今は貴方だけが頼り……気を悪くするようなことを言って、申し訳なかった」

 話が通じてくれたと、みなもは安堵で表情を和らげる。

「いえ、私の方こそ失礼なことを言って申し訳ありませんでした。……これから作業に入りますので、少しお待ちになって下さい」

 そう言うと、みなもは踵を返してレオニードの元へ寄る。
 小声で「申し出てくれてありがとう」と伝えると、彼はフッと目から力を抜き、「ああ」と答えてくれた。