「お前なんかと行ってたまるか。どうせ使いっ走りにするだけだろ」

「そんな扱いする訳ないだろ。毒に、暗器……色々と使えるみたいだしなあ。使いっ走りにするなんてもったいない」

 おどけたように肩をすくめた後、ナウムは目を細めて鋭くした。

「さっきオレの部下に投げた針も、その短剣も靴の刃も、全部毒が塗られているんだろ?……ククッ、まるで『守り葉』みたいだな」

 ちょっと待て。
 どうしてコイツが『守り葉』のことを知っているんだ?!

 みなもは短剣を構え、相手の出方を冷静に伺おうとする。
 しかし胸の中は動揺ばかり広がってしまい、動悸が早まっていた。

 ナウムはその場を動かず、顔だけ前に出してみなもを凝視する。
 ふっ、と一瞬だけ真顔になり、彼は懐かしそうに目を細めた。

「黒髪だからか? オレの惚れていた女に似ているんだよなあ」

「残念だったね。俺は男だから、女の代わりにはならないよ」

 こちらの声に、ナウムは鼻で笑った。

「女だろ? 匂いが違う。胸は誤魔化しているようだが、腕は細いし、なにより腰付きがいい。ぜひ服を脱がせて拝みたいもんだな」

 上から下まで、ナウムが全身を舐めるように眺めてくる。
 羞恥と怒りでみなもの頭が熱を持つ。

「黙れ!」

 みなもは腰を落とし、床を蹴ってナウムに向かおうとした。
 同時に向こうから人が駆けてくる音がした。

 彼は無言でナウムに斬りかかる。
 しかし間一髪、ナウムは身軽に後ろへ跳び、剣を避ける。

 みなもの前に大きな背中が現れ、ナウムと隔てる。
 肩で息をする彼は――レオニードだった。

「覚悟しろ、残るはお前だけだ!」

 切っ先を向けてナウムを牽制しながら、みなもを守るようにレオニードは左腕を広げる。
 そんな様子をナウムは興醒めした顔で見つめ、舌打ちした。

「もう他の連中はやられたのか? 使えねぇな。本っ当、使える人間が欲しいぜ」 
 
 意味ありげにみなもへ横目を流してから、ナウムは踵を返して立ち去った。