ガシャーンッ!

 前触れもなく部屋の窓ガラスが割れた。

 そして黒い外套をまとい、布で顔を隠した男たち五人が部屋へ雪崩れこんできた。

「追手か!」

 相手を見るなり、レオニードが剣を抜いて彼らを迎え撃つ。
 傷はまだ癒えていないが、村で襲われた時よりも動きは機敏だ。一人と剣を交え、相手を押し負かす。

「みなも、こっちに来い」

 浪司はみなもの腕をつかんで引き寄せると、切っ先を追手に向けながら、部屋の入り口側の隅へ移動した。

 レオニードに当たるかもしれないが、麻痺するだけで死にはしない。躊躇している時間が惜しい。
 みなもは袖に隠していた毒針を数本手にすると、追手たちの一人に狙いを定めた。

 シュッ。手首をしならせて毒針を投げる。
 狙い通り、相手の武器を持つ腕に当たり、悶絶し始めた。

 すぐに別の相手に狙いを定めようとすると……一人がレオニードに押されて体勢を崩し、みなもの近くにやってきた。

「来るな、来るな、面倒臭い」

 浪司がみなもを離し、返り討ちにしようと前に出る。

 ぐいっ、と。
 横から何者かに腕をつかまれ、みなもは扉のほうへ引っ張られる。
 堪えようと踏ん張ったが、思いのほか力は強く、廊下まで引きずり出されてしまった。

 前を見ると、他の追手と同じような格好の男がいた。
 みなもは男の手から逃れようと身をよじるが、彼の指は腕に深く喰い込んだまま離れず、強引に部屋から遠ざかろうとする。

 黒の外套からはみ出た手は、北方の人間特有の白い肌だった。

(その手で俺に触るな!)

 焦る気持ちを抑え、みなもは相手に気づかれぬよう、腰に挿していた短剣を抜き、腕をつかむ白い手を刺そうとした。

 突然男は振り返り、みなもが短剣を振り上げた手をつかむ。
 そのまま両手首を掴まれて、壁に押し付けられる。

 悔しいが力では勝てない。しかし、ここで死ぬ訳にはいかない。

 みなもは左足で右足をいじり、靴の先端に仕込んでいた毒の刃を出す。

(殺られる前に、手を打たないと)

 これは相手の命を奪いかねない毒だ。本当なら使いたくないがやむを得ない。
 みなもは膝を上げ、つま先の刃で男の足を斬りつけた。

「おおっと、危ない」

 咄嗟に男はみなもを離し、後ろへ飛び退く。

 聞き覚えのある声を漏らしながら。

 昼間の悪寒が甦り、みなもの顔が強張った。