決定的ではないが、自分の仲間がバルディグにいる可能性は高くなった。
 みなもは口から手を外し、浪司に微笑を送る。

「ありがとう。すごく参考になる」

「だろ? そんじゃあ情報料をくれ」

 浪司がみなもにゴツい手を差し出し、「さあさあ」とお金をせびってくる。
 カジノに負けて、どうにか旅の資金を作りたいのだろう。気持ちは分かるが、お金を渡す気にはなれない。

 みなもは浪司の手を叩き、小気味よい音だけ鳴らした。

「どうせ手元にお金があっても、またカジノで大損するだけじゃないか。ザガットを離れるまで、お金は渡さないよ。船に乗ったら船券代は渡すから」

「ここで引いたら、丸損確定じゃねーか。ヴェリシアへ出港するまでに、もう一勝負!」

 熱く拳を握る浪司だったが、ぐうぅぅ、と情けない腹の音が鳴り、その場へ座りこんだ。

「夕食代もつぎこんだの? 呆れたな」

 放っておいてもよかったが、寝ている最中も腹が鳴っていたら、こっちが寝付けない。
 みなもは「やれやれ」と息をつきながら腰を上げた。

「情報料に夕食おごるよ。ちょっと食堂に行って聞いてくる」

「金くれよ、金。ワシの飢えは金じゃないと収まらねぇんだよう」

 泣き真似する浪司を見やり、みなもは吹き出しながら扉を開けようとした。

 かすかに廊下から、妙な気配を感じる。

 取っ手から手を離し、みなもは足音を殺して後ろに下がった。

「レオニード、浪司。部屋の前に誰かいる」

 できる限り声を抑え、二人に注意を促す。
 彼らも気づいたらしく、各々に壁へ立て掛けていた剣を手にし、扉を見据える。

 無音が続いた後、足を忍ばせて立ち去る音がした。

「逃げたみたいだね。盗み聞きなんて、嫌な感じだな」

 浪司には悪いが、しばらく部屋を出ないほうがよさそうだ。
 みなもは踵を返し、自分のベッドへ腰をかけようとした。