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 夕食を終える頃には窓の外が暗くなり、民家や店から零れる灯りが、ほのかに夜を照らし始める。

 浪司はまだ戻らなかったので、先に二人で食事を済ませてから部屋へ戻ると、みなもは床に薬研を置いて手持ちの薬草を粉にし、これから必要になりそうな薬を調合していた。
レオニードは剣を鞘から出して、丹念に手入れをしている。

 各々にくつろいでいると、廊下からダン、ダン、とゆっくり重たい足音が近づいてきた。

 部屋の前で足音が消えると、扉が申し訳なさそうに開く。
 現れたのは、しょんぼりと肩を落とし、湿っぽい顔をした浪司だった。

「お帰り、浪司。カジノは楽しかった?」

「聞いてくれよーみなも。最初はカードゲームで順調に儲けてたのに、いきなり負け始めて大損したぜ。あそこ、絶対イカサマしてるぞ」

 商売なんだから、初めにいい思いをさせて、後からお金をまき上げるのは当然の流れだ。賭け事に熱くなって、引き際を逃したほうが悪い。

 そう心の中で思いながら、みなもは「大変だったね」と棒読みで返した。
 こちらの本心を読み取ってか、浪司は口を尖らせてみなもを睨む。

「心がこもってねーよ、心が。せっかくいい情報を仕入れてきてやったのに」

「いい情報?」

 気になったので素直に尋ねると、浪司は得意げに声を弾ませた。

「カジノにな、最近儲けている宝石商がいたんだ。で、どうしてそんなに儲かってるのか聞いたら、バルディグから大量にインプ石を注文されて儲かっているんだと」

 みなもは笑みを消し、口元に手を当てる。頭の中でインプ石を合わせて毒を想像してみる。

 この石自体は薬として重宝されるが、使う方向性を変えれば、どれだけ効きの遅い毒でも即効で効くようになるという性質変化をもたらす。

 ただ、これを毒に使えることを知っている人間は、かなり薬師の知識に精通している。