「ごめんレオニード、嫌な夢を見た。たまに見るんだ……村を襲われて、家族や仲間を殺されて、姉さんと離れる夢。肩を揺すられて、姉さんが戻ってきたかと思ったよ」

 自嘲気味にみなもが「そんな都合のいい話、あるはずないか」と呟く。
 涙こそ出ていないが、丸まった背中が泣いているように見える。

 しかし再びみなもが顔を上げると、いつもの気丈な顔に戻っていた。
 さっきまで儚げだった瞳の光は力強くなり、危うい弱さを隠す。

 ずっとそうやって仲間や家族を失った悲しみや、一人になった心細さに耐えてきたのだろう。
 不意にみなもが、泣くまいと意地を張り続ける子供のように見えた。

 何の慰めにならないと分かっていても、思わずレオニードの手が伸びる。
 少し寝乱れたみなもの頭を優しく撫でた。

 怒られる事を覚悟していたが、意外にもみなもは微笑を浮かべた。

「フフ……懐かしいな。いつも怖い夢を見た時、姉さんがこうしてくれたから」

 そう言うと、やんわりとレオニードの手から離れ、こちらを見上げる。

「ありがとう。少し楽になったよ」

 みなもの穏やかな言葉や表情とは裏腹に、「もうこれ以上、深く関わるな」と突き放された感じがする。

 初めて言葉を交わした時から、彼は強い人だと思っていた。

 ただ、今はその強さが悲しい。

 不意に抱きしめたい衝動に駆られたが、レオニードは思いとどまる。
 今は何をしても、みなもを追い詰めるだけだ。
 そして自分の心も、冷静に彼と向き合えない。

「……そうか。それなら良かった」

 釈然としなかったが、レオニードは引き下がる。
 しかし引き下がりながらも決意する。

 全力で彼を守り、力になろう。

 ――彼が何者であったとしても。