廊下の足音が完全に消え、部屋に心地よい静けさが流れる。無音ではなく、風や外の雑音が丁度よい。
 しっかり休めそうだと、レオニードは態勢を崩し、ベッドに横たわろうとする。

 隣で眠るみなもが視界に入り、動きを止めて彼を見た。

 起きている時は気付かなかったが、寝顔は随分あどけない。
 肌も滑らかで、少女のように瑞々しい。
 年は十八だと聞いているが、成人に近い男性とは思えなかった。

(……こういう顔もするんだな)

 初めて会った時から、みなもは自分の素顔を見せようとしない。
 常に「何でもない」と微笑で己を隠し、相手の出方をうかがっている感がある。誰に対してもだ。

 それが馬車に酔ってから、崩れてきている。
 ずっと張りつめていたものが、緩んでいるような……みなもには悪いが、少しは心を許してもらえている気がして嬉しかった。

 この命を助けてもらっただけでなく、仲間の命も助けてもらおうとしている恩人だ。
 できれば彼の力になりたい。

 きっと彼はそれを望んでいないのだろうが。

(無理もない、か。子供の時分にあんな目にあって、今まで一人で生きてきたんだ。しかもそんな目に合わせたのは、俺と同じ北方の人間……)

 一体どうすれば、彼に報いることができるだろうか?
 どれだけ考えても答えは出ず、レオニードは額を押さえた。

「ん……」

 微かにみなもが身じろぐ。寝苦しいのか、眉間に皺が寄っている。
 妙にその顔が艶めかしく、目のやり場に困る。