ダンッ。
 いつの間にか男の背後へ回った浪司が、男に足を引っかけて転ばせた。

「ワシの連れに何しやがる? さっさと消えねぇと、足腰立たなくなるまでブン殴ってやるぞ」

「いてて、冗談だよ冗談。本気にするなよ」

 男は頭を掻きながら立ち上がり、悠々とした足取りで店を出ていく。
 扉が閉まった後、店主がみなもに頭を下げた。

「すまんかったな。ナウムの奴、普段から目についた人間をからかうんだ」

 顔の皺を深くして「お得意さんだから、きつく言うこともできんし」と、店主はため息混じりに呟く。ナウムという男の迷惑さが、そこはかとなく伝わってくる。

(気づかれないように毒でも使って、痛い目を見せた方が良かったかな。でも――)

 みなもは閉じた扉を、ジッと見つめる。

(足音は聞こえていたのに、触られる直前まで気配を感じなかった)

 何者なのだろうかと気にはなる。
 しかし、あんな男ともう関わりたくはなかった。

 みなもは扉から目を離し、店内の棚へ視線を戻した。