他の人が聞けば言い過ぎだろうと思うかもしれないが、店内を隅々まで見ると希少な薬草がいくつもある。薬を扱う者から見れば宝の宝庫だった。

 中には組み合わせによって強力な毒を作れる物も揃っている。
 薬師としても『守り葉』としても、この品揃えは魅力的だった。

 みなもが目を輝かせて真横の棚を見上げていると――奥の扉が再び開き、閉まる音がした。
 店の客なのだろう。気にもとめずに、みなもは棚を食い入るように見る。

 ごっごっごっ。
 硬い靴底の音が近づき、みなもの後ろで止まる。

 下から上へ。
 短いみなもの髪を、誰かが首筋から頭に沿って撫でた。

「キレーな黒髪、たまんないな」

 色めいた男の声に、みなもの背筋が凍り付いた。

「離れろ!」

 みなもが動くよりも速く、レオニードが男の手を弾いて二人を離す。

 一体どんな変人だ。みなもは振り返って男を見る。
 そこには白金の短髪を後ろに流した青年が、にへらと口元を緩ませていた。

 北方の人間の割に顔の作りは浅く、笑っても目から鋭さは消えない。レオニードには負けるが背は高く、珍しい暗紅の瞳を瞬かせている。

「なーんだ、もう売約済みか。こんな美人さんを好きにできるなんて、羨ましいなあ」

 男がクスクス笑い、みなもとレオニードを見交わした。羞恥を通り越して、怒りがこみ上げてくる。

 とんでもない勘違いをした上に、人を物扱いしやがって。
 ムッとなったみなもへ、男は「おお、怖い」と身を縮ませ、一歩後ずさる。