「見るからに怪しいけど、何のお店?」

「入ってみれば分かるって。一番みなもが喜ぶ店だと思うぞ」

 まるで自宅へ帰るかのように、浪司は扉を勢いよく開けた。
 中から数多の香りが漂い、みなもは鼻を動かす。草の甘い匂いやら、鼻を刺す酸っぱい臭いやらが混ざり合って、奇妙な香りになっている。

 レオニードは臭いに顔をしかめたが、みなもは瞳を輝かせた。馴染みのある臭いだった。

「もしかして、この店……」

 残っていた酔いの気配が吹っ飛び、みなもは小走りに店内へ入っていく。

 店主は席を外しているらしく、中に人の姿はなかった。
 薄暗い店内は、四面を棚に囲まれ、所狭しと壺やビンが置かれている。
 透明なビンの中から、乾燥した葉や木の実がこちらを見つめている気がした。

「すごい。こんなに薬草を売っているお店、初めて見た」

「どうだ、気に入っただろ」

 こちらの反応を満足そうに見ながら、浪司は胸を張った。

「ああ。ありがとう、浪司!」

 感動を隠さずに、みなもは浪司の手をつかんでブンブン振ると、目の前に並んでいる薬草を見た。

(いい品揃えだ。今度からザガットに来た時、贔屓にさせてもらおう)

 右往左往に瞳を動かし、みなもは棚の薬草を見定めていく。
 その時、奥の扉が開き、腰の曲がった老人が出てきた。

「いらっしゃい……おお浪司じゃないか、久しぶり。珍しいのう、お前さんが知人を連れて来るなんて。ワシがこの店を開いて以来、初めてじゃろ?」

 見た感じ、かなり古めかしい店だ。一体どれだけ昔から、浪司は冒険者をしているのだろう。
 みなもが不思議そうに横目で見ると、彼は「そうかもな」と大口を開けて笑った。

「じーさん邪魔するぜ。今日は上客を連れてきてやったぞ」

 ばんっ、と浪司に背中を叩かれ、みなもは前へつんのめる。

(手加減しろよ、この馬鹿力。あ、熊だから無理か)

 背中をさすりながら、みなもは老人に顔を向けた。

「ここまで薬草が揃ったお店は初めてです。すごいですね」

 素直な賞賛の声に、老人は気をよくして微笑む。

「この地域で採れる薬草は、何でも揃っているよ。もしかすると、この世で一番の品揃えかものう」