風に乗って、葉の爽やかな香りが馬車へ入りこむ。鼻で息をすると、清々しい空気がみなもの悪心を癒してくれる。

 浅く息をしながら吐き気と格闘するみなもの頭を、浪司はワシワシとなでくり回した。

「知り合って三年ぐらいになるが、みなものそんな弱った顔、初めて見たぞ。いっつも生意気なところしか見てないから、面白ぇなあ。今のほうが可愛いから、ずっとそうしてろ」

 絶対に人を見て遊んでいやがる。
 みなもが睨んでいると、隣で小さく頷く気配がした。
 それを見逃さず、みなもは瞳を浪司からレオニードへ流す。

「……レオニード、どうして頷くんだよ」

「いや、馬車に揺られただけだ。気にしないでくれ」

 いつも通りに表情はないが、よく見るとレオニードの目があさっての方角を向いている。
 動揺が読みやすい人だと呆れつつ、みなもは唇を尖らせる。

「男が可愛いなんて言われたら、面白くないだろ」

「そういう意味で頷いた訳では――」

 言いかけて、レオニードは言葉を止めて顔を背けた。

「やっぱり頷いたんだ……後でレオニードに飲ませる薬、死ぬほど苦くしてあげるよ」

 やると言ったら本気でやる。
 そんな思いを察してか、「すまない」とレオニードが素直に謝ってくれた。