夕方に小屋へ戻ってきた浪司は、みなもから追手に襲われたことや、急遽ヴェリシアへ行くことになったという話を聞くなり、飲んでいたお茶をブーッと吹き出した。

「おいおい。ワシがいない間に、そんな大変なことになっていたのか」

「汚いなあ、後で拭いておいてくれよ……そういう訳だから、明日の早朝に村を出て、ここから北西にある港町のザガットを経由して、ヴェリシアに行こうと思うんだ」

 栗色の四角い鞄に、調合した薬や、作業用のハサミや薬研などを入れながら、みなもは話を続ける。

「厄介事に巻き込まれたくなかったら、浪司もこの村を早く発った方がいいよ。今まで手伝ってくれてありがとう」

 しばらく浪司はうなり続け、「なあ」とみなもに声をかけた。

「丁度ワシも北へ行く用事があるから、一緒に行かねぇか? レオニードは傷が治っていねぇし、お前さんは見た目からして力がなさそうだからな。ワシが護衛になってやる」

 まさかそんなことを言い出すとは思わず、みなもは驚いて顔を上げる。

「浪司、本気で言ってるの? 下手すればバルディグの兵に襲われるかもしれないのに……嬉しいけれど、気持ちだけ貰っておくよ」

「遠慮するな。どうせワシはいつも冒険で色んな危険と付き合っているんだ。今さら危険が一つ増えたところで変わらねぇ。むしろ危険が増えたほうが冒険らしいぜ」

 浪司がにっかり歯を見せる。もう一緒に行く気でいるのだろう。もし自分たちが黙って村を発っても、追ってくるような気がする。

 あまり迷惑をかけたくないが、確かに旅慣れしている浪司が同行してくれるのはありがたい。
 みなもは苦笑しながら頷いた。

「じゃあ甘えさせてもらうよ。俺からの報酬は、一年分の薬ってことで。言ってくれれば、どんな薬でも調合するよ」

「みなもの薬はよく効くから、ありがたいぜ。さてと……レオニードにも言ってやるか」

 浪司は残っていたお茶を飲み干すと、コップを机に置き、レオニードが休んでいる寝室へと向かった。
 その姿を横目で見送ってから、みなもは鞄を閉じて、おもむろに窓の外を見た。

 村はこれから温かくなって、心地よい季節に入ってくる。この時期を楽しめないことがもったいなかった。