コツ、コツ、と足音を立てながら、みなもはナウムに近づく。
 そして見上げてくる顔に視線を定める。
 
 見れば見るほど、憎しみが膨らんでいく。

 この男がいなければ、両親も、一族のみんなも死ぬことはなかった。
 大好きな姉と生き別れることもなかった。
 心細い思いをしながら、一人で生きていくこともなかった。

 恨みつらみは、胸の内に募るばかり。
 ただ、こんな状態にならなければ、自分は藥師として生きることもなく、レオニードと会うこともなかったけれど。

 ナウムを殺したところで、もう過ぎてしまった時間は戻せない。
 それが分かっていても、胸奥から湧いてくる殺意は止まらない。

 みなもは無言でナウムを睨み続け、漏れ出る怒りをぶつける。
 いっそ視線で人が殺せれば、どれだけ楽だろう――ふと、そんなことを思った。

 ……覚悟は決まった。

 みなもは腰にぶら下げていた革の小物入れを探り、黒の小瓶を取り出す。
 それを見た途端、ナウムは眉根を寄せて苦笑した。

「毒をさらに追加する気か。耐毒の薬のせいで簡単に毒で死なねぇが、長く苦しませながら殺すことはできるからなあ」

 今から訪れるであろう苦しみを、分かった上で笑っている。
 むしろ死だけでなく、救いのない苦しみすら望んでいるように見えた。