「コイツの役目は情報集め。大人たちにあれこれ聴き込んで、オヤジに垂れ流していたんだ。とにかく口がうまくてな、相手を油断させて話を聞き出すのが上手だった……なあ、水月?」

 話しかけられて、ナウムは軽く肩をすくめる。

「そりゃあオレも命がけだったからな。しくじればオレたちが殺されるって、ガキながら必死だった。李湟……アンタの存在を知った時は、お先真っ暗だと思ったもんだぜ。その気になれば国一つを毒で満たせる化け物を、普通の人間が出し抜けるとは思えなかったからなあ」

「言ってくれるな。子供ってことを最大限に利用して、ワシを洞窟におびき寄せて閉じ込めた張本人のクセに」

 淡々とした口調だが、浪司の背後から殺気が漂っている。
 今すぐにでも殺したがっている――そんな空気を感じてしまい、みなもは表情を曇らせた。

 浪司が認めるなら、ナウムの話は真実なのだろう。
 そう受け入れた瞬間、あの日の憤りが、悔しさが甦る。

 仲間や両親が次々と殺された光景は、今も鮮やかに脳裏へ焼き付いている。

 この男、許せない。
 徐々に黒い靄が胸に広がり、純粋な殺意が芽生えてくる。
 抑え切れない怒りで、思わずみなもの肩が震えた。

 そっとレオニードの手が肩に置かれた。

「君の手を汚す必要はない。……俺が代わりに仇を討とう」

 剣を鞘から抜くと、レオニードが一歩前に踏み出そうとする。
 しかし、みなもは腕を伸ばして彼を制した。
 
「気持ちは嬉しいけれど、俺に決着をつけさせて欲しい」

 これだけは譲ることができない。
 自分の手で決着をつけなければ、死ぬまで後悔し続ける気がする。

 眼差しを強め、無言でレオニードに訴える。
 反論したそうだったが、渋々と頷き、こちらの気持ちを汲み取ってくれた。

 浪司に視線を移すと、みなもが言うより先に「お前さんの好きなようにしろ」と了承してくれた。