「これで目が覚めれば、オレのことも覚えていないのか。……ここが頃合いなのかもな」

 長息を吐き出した後、ナウムがみなもに視線を移した。

「みなも、オレのことが憎いか?」

「当たり前だろ。分かり切ったことを聞くな」

 怒鳴りたくなる気持ちを抑え、みなもはナウムを睨みつける。
 あからさまに嫌悪感をぶつけたが、不思議と彼は嫌な顔をせず、どこか安らいだ表情を見せた。

「そんなに憎いなら、オレの命をくれてやる。もう生きることにも疲れた……お前の好きなようにオレの心臓を止めてくれよ」

 言われてみなもは呼吸を止め、ナウムの目を凝視する。

 憎い。殺したいほど憎い。
 ただ、殺されることを望まれてしまうと、殺すことで彼を喜ばせるような気がして、躊躇してしまう。

 こちらの動揺を見透かしたように、ナウムは声を押し殺して笑った。

「さっきといい、今といい、案外と甘いところがあるなあ。だが……これを聞けば、オレを殺す覚悟も決まるだろう」

 一体何を言うつもりなんだ?
 予想もつかないのに、嫌な胸騒ぎがする。
 思わずみなもは己の胸元を掴み、固唾を呑む。

 焦らしているのか、長く間を空けてからナウムは口を開いた。



「お前たち一族をバルディグに売ったのは……オレだ」