「危ないっ!」

 急にレオニードがみなもを引き寄せると、間髪入れずに横へ飛び退く。
 
 目まぐるしく周囲の風景が変わり、視界が揺らいでいたみなもの耳に、ドンッ、と何かを殴りつける鈍い音がした。

(何が起きたんだ?!)

 みなもは慌てて自分の周りを見回す。
 視線の先には、床で唸りながらうずくまる男――ナウムの姿があった。

「……あの短剣で傷を負って、なぜ生きているんだ?」

 低く押さえつけた声で呟いたレオニードの声を拾い、みなもは状況を察する。

 おそらく自分が渡した猛毒の短剣を使ったのだろう。
 普通の人間ならば、かすり傷ひとつ負えば死んでしまう毒。それなのに生きている。

 しぶとい、という言葉では片付けられない。
 みなもが目を見張っていると、ナウムは咳き込みながら上体を起こした。

「オレのためにいずみが作ってくれた、耐毒の薬を飲んでいるからな。おかげで意識はぶっ飛んだが即死は免れた」

 いつものようにナウムが不敵な笑みを浮かべようとする。
 が、青白い顔で力なく笑うことしかできず、見るからに生気が弱まっていた。

「ククッ……情けねぇなあ。オレが唯一守りたかったものすら、守れねぇなんて」

 ナウムはふらつく体を支えようと、腕を突っ張る。
 そして目を細め、どこか悲しげにいずみを見つめた。