「……姉さんを寝かせてあげたいんだ。運んでもらってもいいかな?」

「ああ、もちろんだ」

 重々しく頷き、レオニードはいずみを抱き上げる。
 長い髪がさらりと流れ、みなもの手を撫でながら離れていく。

 さっきまであった温もりが消え、未練が残る。
 ここにいるだけ動けなくなりそうで、みなもは機敏に辺りを見渡し、いずみを寝かせる場所を探す。

 部屋の奥に大きなソファーを見つけると、レオニードに目配せする。
 すぐに意図は伝わり、彼は大きく揺れないようにしながらソファーへ向かうと、慎重に彼女を降ろした。

 横たわったいずみの顔を、みなもはジッと見下ろす。
 心残りはなくなったのか、その寝顔は穏やかに微笑みを浮かべていた。

 自分が知っている、一番いずみらしい表情だった。

(これからもずっと、姉さんのことが好きだよ。俺は姉さんのことも、この気持ちも絶対に忘れない)

 心の中でそう呟いていると、レオニードがみなもの肩を優しく抱いた。

「みなも……ヴェリシアへ戻ったら、お姉さんの話を聞かせてくれ。君たちが姉妹だということを、俺も覚えていたい」

 こんなことも一緒に背負ってくれるんだ。
 レオニードらしいと思いながら、みなもは彼に少しだけ寄りかかった。

 いずみの顔をしっかり脳裏に焼き付けた後、みなもは「行こうか」とレオニードを促す。
 彼が無言で頷き、こちらの肩から手を離す。それを合図に踵を返し、机の上に置いた本を取りに行き、みなもは片腕で抱え込む。

 その直後――黒い影がみなもに覆いかぶさった。