せめてレオニードがどんな人なのか伝えようと、みなもは口を開きかける。と、

「みなも、無事か?!」

 懸命に走っている足音とともに、廊下から声が飛んでくる。
 みなもが頭を上げて視線を動かすと、切羽詰まった顔で息を切らせたレオニードが部屋に駆け込んできた。

 ナウムの生死は分からないが、レオニードが勝ったからここへ来たのだろう。
 彼が生きていてくれて良かった――みなもの顔が思わず緩む。

 ふと視線をいずみに戻すと、彼女は二人を見交した後、レオニードに向かってニコリと笑った。


「……どうかこの子のこと、よろしくお願いしますね」


 言い終わった直後、急にいずみの体から力が抜け、こちらへ倒れ込んでくる。

 みなもは咄嗟に受け止めると、彼女の背中を揺すった。

「姉さん……いずみ姉さん!」

 声をかけてもまったく反応しない。
 眠りについたのだと分かっていても、目から涙が溢れた。

 次に目を覚ます時は、もう一族のことも、自分たちが姉妹だったことも忘れている。
 これから先、もし再会することがあったとしても、家族として向き合うことはない。

 いずみはこれからも生き続けていく。
 けれど、姉としてのいずみは死んだも同然だった。

 みなもの足元から感覚がなくなり、その場へ浮いているような気分になる。
 膝が折れそうになった時、大きく頼もしい腕が背中を支えてくれた。

 子供のように、泣いて立ち止まってなんかいられない。
 みなもは袖で涙を拭うと、鈍い動きで首を動かし、間近になったレオニードを見上げた。