なぜ生徒会長になることができたのか、綾瀬くんはいまだ不思議でならなかった。





生徒会長とは、学年でもずば抜けて成績がいい者や、周りからの人望がある者がつく役職。そう考えていたのは綾瀬くんだけではなく、大体の先生や生徒も同じだっただろう。





しかし綾瀬くんは成績が特別いいわけでも、クラスで人気があるわけでもなかった。物静かで目立とうとせず、仲のいい友人も特にいなかった。休み時間は図書室で、本を読んで静かにすごしていた。見た目は悪くないので、入学当時は女子生徒に人気があったが、彼がどんな性格なのかがわかると、皆離れていった。





綾瀬くんは、けっして生徒会長らしい人間ではない。自分が生徒会長に立候補したときの皆の反応を、綾瀬くんは昨日のことのように覚えていた。





ーーまるで、宇宙人を見るような目をしていたな。先生までもが。





では、綾瀬くんはなぜ立候補したのか。その答えは、一言でまとめるとこうなる。





「しょっぱい青春」のため。





「しょっぱい青春」は、綾瀬くんが入学当時から憧れていたものだった。「あまずっぱい青春」ではない。綾瀬くんは「あまずっぱい青春」を、何よりも嫌っているのだ。





ーー盗んだバイクで走り出すだの、夕日に向かって走り出すだの、まったくもって馬鹿馬鹿しい。僕が求めているのはそんなものじゃない。





ーー親にも教師にも反抗せず、規則を破るようなこともしない。熱血にはほど遠い、多忙なだけの日常! 与えられた仕事だけをただもくもくとこなすだけ、恋だの友情だのについて考える必要もない! それこそが、僕の求めるもの。「しょっぱい青春」よ! 嗚呼!