「おーい、月宮~、いいぞ~」
担任の声に呼びかけられ入ってきた人はーー、
栗色に染められた髪、耳には銀のイヤーカフ。つり目で冷たい雰囲気をまとった……男の子。
それも、第二までボタンをあけ、灰色のパーカーを羽織っている。
完全に女の子じゃない。男の子だ。
もっていた希望が儚く崩れ去る。
白露じゃ、ない。
重々しく溜め息をついて、机に顔を突っ伏した。
飛んでいきそうだった心に鉛が流し込められて、地に落とされたように重い。
「月宮 柚樹です。宜しくお願いします」
特に緊張する様子と気怠いという様子もなく、短く名前を言った。
女子が口々に「格好いいね」と囁きあう。確かに格好はいいかもしれない。
だけど、そんなこと関係ない。
久しぶりに盛り上がった感情が一瞬で消えて、格好良いと盛り上がる気持ちには持っていけなかった。……勝手に盛り上がった私が悪いのだけれど。
「よし、じゃぁ、……遠桜、おい、遠桜!!」
「は、はいはいはい!!?」
吉田先生に、どんな前ぶりか、急に話を振られた。
体を大きくびつかせて、顔をあげる。一瞬月宮と目があったが、すぐにそらされてしまった。
「遠桜、お前を月宮の世話係りに任命する!」
は?
呆然として先生を見返す。呆気にとられて声も出なかった。聞き間違いをしたのだろうか。頭の上にハテナマークがうかぶ。
「おいおい、何っつう顔をしてるんだ。お前は学級委員だろ? 帰る方向も一緒だし」
「……困ります」
声を絞り出すと驚くほどに気弱さが目立った。
「困るって……。もう一人の学級委員の大西は寮生だろ?」
私達の学校は私立のエスカレーター式のこともあって、一部の人たちは寮生活を送っている。千緒は寮生だから、自動的に私が世話がかりに任命されたようだ。
まさか、千緒が強制的に学級委員にさせたのが、こんなところで裏目に出るなんて。しかも男の子の案内だとか!
「~~っ、他の人じゃ駄目なんですか?」
何も私じゃなくても!
困惑した表情で私は辺りを見た。……一部の女子の視線がいたい。
千緒はにこやかに私に手を振っているが恨めしい。
「だって遠桜、男にきょーみないんだろ?」
さらりと侮辱していませんか?
っていうか、他の女子だってきっと適任はいると思います。……なんて、言おうとした時に、月宮の表情を見た。
拒絶したからか、複雑な表情を浮かべている。
罪 悪 感 。
悪いことをしたな、と一瞬のうちに思う。初対面の人に訳も分からず拒絶されるなんて気分がいいものではないだろう。
「ーー分かりました。月宮君、だっけ、よろしくね」
彼に苦笑すると、彼も曖昧に笑顔を浮かべた。
ーー…そうだ、そうよ、男子嫌いをなおす良い機会じゃないか。月宮には悪いが、彼を利用する手はない。
「じゃぁ、席も隣が良いか? 遠桜の隣……、結野。空いてる席に変わってくれ。あの、一番後ろ」
「リョーカイです」
結野 和[ユイノ カズ]。
私の隣席である、眼鏡っ子青年だ。半端なく頭が良いくせに、無口。必要最低限しか喋らない人。
私としては、変に男子と関わりたくもないから嬉しくて堪らなかった……、のに。
結野が席を立ち、バックを持って、一番後ろの席に座った。
「で、月宮。そこな」
「あーー…、はい。分かりました。よろしくねー、遠桜さん」
人懐っこい笑みを浮かべる、その顔。先ほどのことはもう気にしていないように見えて、すこし安心してしまう。
「ええと、なんかごめんね。私は遠桜 茜っていうの、此方こそよろしく」
けれど、やっぱり相変わらず、男子は苦手だ。