足取りが軽かった。スキップでもしながら歩いてしまいそうなくらいに気持ちが浮き上がっている。
教室に満面の笑みで入り椅子に座った。
「茜、おはよーっ☆」
私を見つけるなり駆け寄ってきたのは、大西 千緒〔オオニシ チオ]。ショートヘアの茶髪で高1にしては小さい152センチの童顔っ子だ。
おはよう、と返事して手を振る。それからすこし視線を伏せて考えるが意を決して尋ねることにした。
「ちー。今日、転入生とか……、来るのかな?」
「……え?なんで?」
驚いた様子で千緒は目を丸くする。
(やっぱりか……)
来ないんだ、この学校には。肩をしょぼめて溜め息をついた。浮ついた自分が恥ずかしい。
横浜にはいくつ高校があると思っているんだ。考えればすぐに分かること。
それでも、期待を抱くのが人であって。
「そっかあ、残念」
曖昧に笑みを浮かべて、バックを机の横にかける。
「いやいや、そうじゃなくて」
千緒が小さく首を横に振って、明るく言い放つ。
「なんで分かったの? 今日転入生来るってコト」
「本当!?」
それを聞いて机を叩いて立ち上がる。千緒が再び驚いて目を見開いて、けたけたと笑い声をあげた。
「うん、多分ね。席空いてるし」
人差し指を、窓側一列目の一番後ろに新しく出来た席に向ける。
新しい席。転入生。……白露?
嬉しくて、堪らなくて、ニヤニヤが止まらなくなる。
どうしようどうしよう。
会ったらなんて言おう? 初めまして、ずっと会いたかったんだって笑って言えばいいのかな。
なんだ、この学校に来るなら教えてくれればいいのに。
昨日勢いに任せてどこの高校にはいるのかと尋ねたメールは無視されてしまった。個人情報だし仕方ないとは思ったが、……鞄に入っている携帯をみる。
もう一回メール送ろうかな?
そのとき学校にチャイムが鳴り響き、どきりと心臓がはねた。