曖昧な意識の中で、いい臭いがすると、認識した。
私の好物である、ビーフシチューの匂いだ。
その一方で、何とも言えない馴れない匂いがした。臭くはない、のだが。
それに、いつも使っているベットとは明らかに違う柔らかさをもつベット。なんというか、いつも使っているのより固かった。
そんな中、ふと思う。
いつの間にベットに来たんだろう?
誰か私を見つけて保健室に寝かせたのか?
しかし、保健室はビーフシチューの匂いじゃなくて、消毒品の臭いのはずだ。
思えば、倒れる寸前、誰かに会った気がする。
「ん……っっ」
起きなきゃ、と思って、重い体を起こした。
私は黒いソファーに寝ていて、ふわふわの毛布がかかっている。
モノクロと透明に彩られた部屋は綺麗に整頓されていた。
白色の壁、黒の毛皮絨毯。大きいテレビ、……まだどれも真新しい印象があった。
ーーでも。
まだ、ぼんやりした考えのまま辺りを見回した。
「此処は、……何処?」
思ったことが、言葉を紡いだ。
「ぁ、起きた?」
「……っっ!!?」
慌てて、声の方を見る。
あ……。
茶色の髪に、耳にはイヤーカフ。少しまだ子供のような、その顔。
この人は誰だ?
認識したくなくて、思わず考え込んだ。
倒れたことは、一応、覚えている。
「どーした?」
ズイッ、と彼の顔が近づく。
認めたく……、ない。
男子の……、しかも、不良の……。
もしかしたら、あーんなことやこーんな、卑猥なことを……っ。
「おーい」
怖い。
嫌、誰か。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!?」
まだ、日が上ってすぐの6時丁度。
場違いを及ぼす叫び声が町内を駆け巡った。