薬指~未来への誓い~

『由樹が真吾の子供だと言った妊娠をね、真吾は“オレの子供じゃない”って言ったんだけどさ、彩はどう思う??』


彩はこんな質問をした私の目を見て、『ホント、バカね…』と笑った。




『そんな事くらい私に聞かなくても、倖知自身が1番分かってるくせに』


……たしかに。


私は真吾の言葉を疑ってたりはしていない…。


真吾は…そんなに無責任な人じゃない。


良い言い方をするならば…誰かの為なら自分の事なんか二の次にしちゃう責任感が強い人…。

悪い言い方をするならば…おせっかいな超不器用者。



もし、別れた後でも由樹が自分の子供を妊娠したと知ったら…
そのまま見て見ぬ振りなど全然にしない。


ちゃんとその時には真吾はきっと子供の為にケジメをつける。










……………はず。。
『倖知が失って気付くのはきっと真吾くんとの“家族”だよ。真吾くんと倖知とお腹の子で、笑い合ってる家族の未来』


私が真吾の子供を妊娠した時…

挙式で薬指のリングに誓った時……



“これからの未来”への希望で私は胸の高鳴りを隠しきれなかった…。



真吾の隣で笑いあっている幸せな未来を想い描いていた…。






『それに、おじさんに笑ってありがとうって言えなかった事が悲しいなら、家族3人で笑ってる姿を見せてあげればいいんじゃない??おじさん、絶対嬉しいと思うよ♪』




きっと私…
同じ事を彩じゃない他の人に言われたら『きれいごとだっ!!!!』って、反抗してたんだろうな…。






『それでも倖知が真吾くんと別れるって決めたなら……私がこの子の家族になってあげるから♪♪』

『あっ……』





“私が家族になる”



このセリフは……!!




『倖知の受け売り(笑)私、すっごい嬉しかったからさ♪♪』



言っても照れるし、
言われても照れるし、
言ったと思い出されても照れるな…。。。





でも………ありがとう、彩。


『この子が私と真吾の希望…??』



まだ私のお腹にあるあたたかな彩の手の上に、私も手を重ねた。





『明日、真吾と…話てみる』

『うん』



また私の頭をポンポンって撫でた彩の笑顔に私は何度も癒される。




『さて…今日はもう寝なさい』


時計はいつの間にか日付が変わった時間になっていた。



『彩は朝までいる?』
『いるってば(笑)』


あっ、また私子供みたい…。
やっぱり、彩は妹じゃなくて、お姉さん…かな。。



私はベッドに潜り、寝転んだ。


『彩も一緒に寝る?』

『嫌だよ、気持ちわるい(笑)』

『昔は一緒に寝たじゃ~ん!!!(笑)』

『それに、倖知は寝相わるいもん!!!真吾くんに言われない!?!?』

『……言われる』



いつの間にか、普段通りの私たちのテンションに戻っていて、笑い合っているうちに私の意識は途切れた…。



あんな事があった日に、こんな笑いながら眠りにつけるとは思ってもみなかったよ…。



彩??私はね、これから先もずっとずっと彩と笑い合ってる未来も…

一緒に見に行きたいな…。




カーテンの隙間から差す朝日に、私は朦朧と意識を戻した…。



私の背中の方から話声がする…。


誰??彩????



バシッ!!!!!!



何かを叩いた生々しい音で私の目は覚めた。


『…倖知を、泣かせないで!!!』


彩の声は少し震えていた…。


『ごめん…』


真吾の声だ……。


さっきの何か叩いた音は…彩が真吾をひっぱたいた音…!?


『倖知に対しての同情心に近い謝罪の気持ちや、自分の負い目で別れないって言ってるなら、今すぐ別れて』


真剣な二人の会話に、私は起きるタイミングが分からなくて、寝たふりのまま耳を澄ませていた。


『違う!!俺は…俺が倖知といたいと思っから、別れたくないんだけど……』

『それでも倖知が別れたいと言ったら真吾くんはどうするの??』


――私も気になる…。


『…別れたくない』

『それじゃ、話は平行線のままじゃんか~。一晩中車で考えた結果がそれ??』



―――そうだそうだ!!彩、もっと言ってやって!!!


『もしも、倖知が俺を憎んでたら、俺の一生かけて償う!!結婚式って…女の人にとっては“特別”なのに台無しにさせちゃったし…。んで、もしも、嫌いになられてたら…、…どうしよう……』


『なにそれ!!』


―――なにそれ!!




私は真吾にツッコミたい気持ちを抑えてるのに必死!!




―――さて、どうやって起きよう???


寝たふりなんかするんじゃなかった!!


この雰囲気の中で今さら…“今起きました~”みたいな演技をして起きる事なんて


私には出来なぁ~い!!!


でも……


そんな事は考える必要がなかった事はすぐに分かった…。
『ブッッ………(笑)』


ブッ………?????



『彩ちゃん、笑ったらいかんって!!!』


ん?????



『倖知、おはよ♪』


私の目の前にいきなり彩のドアップ!!!!

満面の笑顔で私の背中から顔をひょっこり覗きこませてきた!!!


私は目がまん丸になっちゃって絶句……。



真吾の笑い事も聞こえるし!!!!

なによ、これ!!!!!



『いつ…から??』


私が起きたなんていつ気づいたのよ!!!!



『それはね……』



どうやら……、私が昨夜寝たのを確認した彩は真吾に電話をして、家の中で二人で話をしたらしい。

もちろん、私はそんな事も気付かずに爆睡中…。

で、朝になっても起きる気配の全くない私のヨダレを垂らして寝てた姿を彩と真吾は見て…、『倖知を騙そう計画』を企んだって。


私に朝日があたるようにカーテンをずらしたのも彩。




ピクリと動いたきりまたピタリと動かなくなった私を確認した二人は…座りこんで演技開始。。



『ヒドイヒドイヒドイッ!!!!!二人とも大っキライ!!!!!』


奮起する私に真剣に謝るのは真吾。


『ごめんなさい…』

『彩も彩だけど、真吾までなんで私を騙すのよ!!!信じらんない!!!』


奮起し続ける私と、おとなしく正座して謝る真吾と……

そして、至って普通に話し出す彩。



『だってさ、昨日倖知は“真吾と話す”とか言ってたけど、いざ話し出したら絶対感情的になって真吾くんの話なんか、いっさい素直に聞かないでしょうが?』


『う゛……っ』



相変わらず図星をグサッと刺される。



『真吾くんはね、私が倖知を騙そうって言った時、反対したんだよ♪ちゃんと話すから~って。でも、無理言っって私が押し通したんよ』


チラッと真吾を見ると、首を“うん、うん”と縦に振ってるし。。



『彩のおせっかい…』

『倖知の意地っ張り!!!』



いつも私の事心配してるとか言いつつ…今は絶対私で遊んでるでしょ、彩。



でも…
悔しいほど図星をつかれてる。。

さすが…彩。


思わず感心しちゃったじゃんか~~~。。





『さて…、私は帰るね♪』

彩はカバンを手に持ち、そそくさと靴を履きに行く。


『えっ??帰っちゃやだ~!!』

『私は徹夜で眠たいのっ!!』


私と真吾に背中を向けたままサンダルのストラップをパチンと止めて、彩は再び笑顔で振りかえる…。


『ちなみに……
さっき倖知が聞いた真吾くんの言葉、あれ演技じゃないから!!ついでに、私のもねん♪』


笑ったまま玄関を開けて


『ちゃんと素直になりなよ!!!…たまには♪(笑)』


笑ったまま扉を閉めた。



“たまには”は余計だ!!!(笑)って、冗談言い合いたかったのに…


“演技じゃない”なんて聞いたら、何も言えなくなっちゃうじゃない……。



彩がいなくなり、真吾を見ると、左頬を指でポリポリ掻いていた。

『彩ちゃんって…怪力だね』

『まさか…本当に叩かれたの?』



真吾は苦笑いして頷いた。



『えっ??どこまでが本当で、どこからが演技なの!?』


もぉ、私の頭ん中はゴチャゴチャで意味わかんないっ!!!



『倖知が寝てから彩ちゃんに呼ばれて~……』


部屋に入ってきた真吾を彩は真っ先にひっぱたいた。
それから…私が寝たふりをしていた時に聞いた話を二人で話をした。


要するに…、私が聞いた二人の会話は、
私に聞かせる為だけに彩が仕組んだ回想演技。





『夜中にさ、ずーっと彩ちゃんは俺の事を怒って泣きながら倖知との事を話してた…。もちろん、俺が全部悪いんだけど…。倖知の大好きな友達まで、俺が泣かせちゃった…ごめん。。』



彩……。
私の為にずっと泣いてたの??



『俺さ、倖知の事が大切だって思ってるのは、世界中の誰よりも俺だ!!って今まで自信あったんだけどさ…、彩ちゃんには負けてるっぽい』



真吾が真顔でそんな事をしみじみ話すから…


『当たり前じゃん!!!彩と私の仲を嘗(な)めたら痛い目見るよ!!』


『もう、みた…』


そう言って左頬をプクッと膨らませる真吾が、さっきまで彩に甘えてた私みたいで笑っちゃった。