薬指~未来への誓い~

『私が産んだのに~って、拗ねていいかな??』


体も洗われて、キレイになって戻ってきた赤ちゃんは……

真吾にそっくり!!


新生児でそんなにわかるのか!?って
誰よりも私たちがツッコミたくなる程に…。

まさに、真吾が赤ちゃんになっちゃった感じ!!!


しかも……女の子だから、さぁ大変。。



『パパに似た方が女の子は可愛くなるっていうからイイか♪(笑)』


そう言って笑いかけたのに……


涙目の真吾の瞳からは人目をはばからずにポロポロと大粒の涙が落ちた。




『……おへっ(訳・おれ)』

『ん??』

『守るから…絶対守るから……』


私と赤ちゃんのベッドの間に立ち膝をつき、涙を流しながらも視線を外さない。


『もぅ…絶対泣かせないから…守るから……』



何度も何度も言ってくれる真吾が嬉しくて…私まで涙が出てくる。


『……赤ちゃんは泣くのが仕事でしょう??』

『……そうだけどぉ~…』


クスッと笑って赤ちゃんの手を触る。



『あったかい…』




柔らかなちっちゃい手はとっても温かくて……




このぬくもりを守り続けると2人でこの時に誓ったんだ……。



──────────……



『俺も仕事休む~!!』

『バカな事言ってないで早く行きな!!遅刻するよ!!』

『倖知ばっかりズルい!!』

『毎朝うざい!!!』




一週間後に私は退院して、常に家にいる朝。

毎朝してるこんな会話(笑)




パパは仕事に行くと娘のそばにいられないのがイヤなんだとさ。

すでに確実に“超”親バカ。。




『すぐ帰って来るからっ。待っててね』


カワイイお目めをぱっちり開けてパタパタと手を動かしてる娘にパパから“いってきます”のご挨拶。


『倖知っ!!バイバイしてくれた~♪』

『はよ行けーっ!!』


もし、娘が今喋れるてしたら…絶対『うるさい』って思ってんだろうな……(笑)



『葵衣(あおい)ちゃ~ん、いってきま~す♪…あ、倖知もね』

『はいはい……』


あ………って、私は付属品ですか(怒)






ハァァ………。。

やっと行った……。

娘のミルクよりオムツ換えより夜泣きより………

毎朝の真吾が一番手がかかる!!!





『うるさいねぇ~♪葵衣♪』

『ァ~』

『お返事じょうずぅ~♪カワイイっ♪』


………私も充分親バカだ。。



真夏生まれの愛娘の名前は…



【葵衣(あおい)】



由来は……



ひまわり。




向日葵の一文字から【葵】




周りを明るくさせる元気な女の子になって欲しい。


“あおいチャンは向日葵のような子だね”……と言われるような


葵衣の周りには満開な向日葵が見えるように【衣】






ひまわりのように



いつも真っ直ぐ光の射す大空へ羽ばたけるように……。






ひまわりのように




葵衣の歩む未来はいつも光が射しているように………。





私たちからの

はじめてのプレゼント……。




いつか自分の名前の由来を知った時、あなたは笑ってくれますか??


ひまわりのように…───




『ひまわり、植えれなかったねぇ…』

『プランターじゃ味気ないしな…』

『そうだよね』

『もう夏終わっちゃうし…来年また考えよ』

『うん♪』





日の沈む時間が早くなってきて、
肌を通り過ぎる風が心地よくなってきた頃、私たちは手をつないでいた。



指をしっかり絡ませ、掌から伝わるお互いの体温を握りしめて。








きっと







このまま







どこまでも行ける…






そんな気がした。。





『ねぇ、真吾??』

『ん??』

『もう私に“愛してる”って言わないで。もちろん普段も、エッチの時もね?』




つないでいた手がパッと離されて…




『なに言ってんだよ!?』


真吾は少し怖い顔をした。





『真吾に愛されてるのなんて分かってるもん』

『…意味分からん』

『自惚れすぎかな??』

『そうじゃなくて!!なに言ってんだって!!!』







そんな怖い顔して低い声で怒らないでよ……。






私はね…
ちゃんと大切なものは分かってるの…。



それを、見失う事の怖さすら…
ちゃんと………。




私はもうあなたの手は離したくない。。。



離せれないのよ。




でもね、
だからこそ……
言ってるの。






きっと…私は真吾が私の事を愛してくれていると、過信をしている。



真吾はなにがあっても私からは離れない………と。





あなたはそんな私をどうして『自惚れだ』と笑ってはくれないの??





『いつか…』


いつか…


私から言いたい。



“あなたを愛しています”と…――― 





胸を張って



真っ直ぐ瞳を見つめて



心の全てで



永遠の眠りにつくまで



あなたと共に
歩いてゆきたいと…――








もう一度



薬指に誓って…――







今は
言えない。



思ってないわけじゃないよ…。



あなたのぬくもりは失いたくない。



私の大切なものは
確かに
目の前にある。








けどね……





胸の痛みが取れない。




まだ疑ってしまう心があるの…





“あの日”のような日がまたやって来る………と。





傷つきたくない……



暗闇の中で見失う日々を繰り返したくはないから



最初から求めはしない………




愛も…
夢も……
希望も………。。



目の前にはあるのに



私の手にあるとは言えない。








胸を張って



真っ直ぐ瞳を見つめて



あなたを愛していますと



言える自信がないんです………。





でもね



覚えてるの………。





“そんなものは過去を美化した妄想だ”と



誰に笑われても



誰に見下されても



構わないんだよ。





それでも

今の私が

胸を張って言える事が1つだけあるの。


“私の心は覚えてる”







“あの日”



胸を張って



真っ直ぐ瞳を見つめて



心の全てで



薬指に誓った



“あなたへの永遠の愛”







あの日誓った“永遠”は一度見失ってしまったけど



まだ心の中に小さな小さな灯火が残っていた……。




フゥッと息を吹きかければ今にも消えてしまいそうだったけど



今は大切に大切にその小さな灯火を信じたい。



どんな強い風が吹いても、私が身を挺して守るから



いつか大きな大きな光になる日まで…―――






だから………







待っていてくれませんか??





“私を信じてください”

…なんて、言えやしないから






『私を待っていてくれませんか??』




『いつまでも“悲劇のヒロイン”の私を…待っていてくれませんか??』




涙が溢れる。






気がつけば空は暗くなっていた。



街頭がついて青白く光る道端で向き合いながら

涙を流してる女を見て、きっと周りの人は不審がってるんだろうな……。。





繋いだ掌が温かくて
その温もりが私には
全てだったから…



こんな所でも心のままに伝えたかったんだもん。





『…泣くなよ』


一部始終黙ったまま聞いていてくれた真吾は優しく微笑んで指で私の涙を拭った。



『…だってっ』



まるで駄々をこねて困らせてる子供だ。


『帰ろっか』



私の頭を撫でて
その手を差し出される。



『……ヤダァ』


首を横に振っちゃった。



だってぇ…

聞いてないもん。



真吾の返事、聞いてないもん……。