薬指~未来への誓い~


自分を『つよい』なんて思ったことはないけど…




こんなに『よわい』とも 思ってなかったよ。






苦しくて 痛くて こんな想いをする心なんていらないと思ってけど





それでも この心で あなたを 愛していました。






まだ苦しくて 涙が出るくらい痛いけど




あなたを愛した 心の温かさは まだ覚えてるから…






だから…






それでも この心の精一杯で 前に進む事を 決めました。






決して“あの日”には戻れないけれど





“あの日”誓った想いを もう1度取り戻せたら





もう一度『愛してる』と言ってもいいですか??



そして…



『愛してる』と 抱きしめてくれますか??






“あの日”がやってくるなんて思いもせず、ただ…ただ幸せだった日々があった。


今思えば…この時が一番幸せだったのかもしれないね…。




『私、妊娠してる…』



どっちからかける。とか、何時にかける。とか約束したわけじゃないけれど

毎日夜にその日1日の事を話す電話をするのがいつの間にか付き合って2年経っていた私達の日課だった。



その日は私がいつものように電話して、いつものような1日のたわいもない話…なんかじゃ全くない話しをしたんだ。




妊娠が分かった時は、私は20歳。彼氏の真吾(しんご)は22歳。


まだ将来の事なんて明確になんて見えないまま、ただ二人でいる時間が楽しくて嬉しくて。



そんな日が続けばいいと思っていた矢先の私の妊娠。



もちろん、戸惑いや焦りや不安がなかったわけじゃない。


けど、真吾の子供が…新しい命が私のお腹に誕生した事が涙が出るくらい嬉しくて 愛しかった。




妊娠を伝えると真吾は電話の向こう側で黙ってる。



『なんか言ってよ』


沈黙が不安だった。

真吾だって、私の妊娠は予想外なんだから仕方なかったんだと思うけど、
沈黙の時ほど不安になる時はないんだから。
『倖知(さち)のお父さんって、いつ家にいるかな?』




いつもの優しい真吾の声…。




『え?じゃあ…産んでもいいの?』


『結婚…しよか』





初めて真吾から聞いた“結婚”の二文字。





嬉しさと驚きで何も言えなかったよ。



『なんか言えよ~!…ホントはな~色々考えてたんだぞ!!倖知にプロポーズする時の事!!どう言おうとか、どこで言おうとか!!聞いてっか!?!?』


照れ隠しのようにめったにない饒舌でムキになって喋り続ける真吾に



嬉しくって、おかしくって




『うん…うん…分かったってば』


笑っちゃったよ。




その時、自然ととめどなく溢れ出すあたたかな幸せな涙を初めて流したんだ。





『倖知?泣いてるの?あ、ゴメン!!やっぱり電話で言う事じゃないよな!!頼むから~泣くなよ~』





大丈夫だよ。





真吾のプロポーズは




世界一幸せで暖かくて面白いプロポーズだったよ。





私にはいっぱいいっぱい溢れちゃいそうなくらい真吾の心は届いてたよ。





『真吾…ありがと。』


『おっ、おう』





本当に本当に…
ありがとう、真吾。




週末にお互いの両親に挨拶に行った。



古くさい言い方かもしれないけど、“順番”の違う私たちの結婚。




反対されても産むもん!!とか、駆け落ちしちゃう??とか、
いろんな妄想膨らませてたのにさ……




拍子抜けしちゃうくらい、お互いの両親とも喜んでくれて、私のお母さんなんか…




『真吾クン、倖知はワガママ娘でしょ~?面倒かけると思うけどよろしくね~。』


なんて言うしっ!




真吾は真吾で…


『そうですね、頑張ります』




なんて笑って会話してるしっ!!
もうっ!!






そりゃさ、私はワガママなのは自覚してるしさ、真吾は笑ってそんな私のワガママも包んでくれる優しさに甘えてばっかりだけどさ…



やっぱり真吾も私の事ワガママなヤツだって思ってたんだ~(泣)








『そんな拗ねるなよ』




頬を膨らませて拗ねてる私に、優しく微笑んでくる真吾。







ほら…




また安心しちゃうじゃない。


こんな私でも、真吾の隣にいても…いいんだよね?





みんなで笑ってる…

この温かな笑顔の空間が楽しくて。





これからももっと幸せな日々が続くんだよね、真吾。



その1週間後の6月30日。



私たちは入籍をした。



婚姻届を書くときは緊張して手が震えちゃってうまく書けないし、
やっと書けた!!と思って役所行こうとしたら、私がげーげー吐き出しちゃうし…。




でも、ドタバタなのはきっと私たちらしい。



やっと役所に提出をした時はもう、キレイな夕焼け空。



『あっという間に名字が変わっちゃった』



私の入籍後の第一声。





『いや???』


そう聞く真吾に、ブンブン首を横に振る。



『そりゃあ、20年間使ってきた名前だから変な感じだけさ、嬉しいに決まってるじゃん!!!』


そう、大好きな真吾と“家族”になれた事の方が嬉しいに決まってる!!!




『これからは、真吾は“旦那さま”だね♪』

『よろしくね、“若奥さま”♪♪』






…聞いた??聞いた????



若奥さま、だって♪♪キャハ~☆☆☆






『落ち着けよ…』


真吾は呆れ顔で私の頭を軽くポンッと叩いた。




落ち着いてなんていられないってば!!!


妊娠中じゃなかったらスキップして帰っちゃう気分だよ☆☆



結婚してからの私のワガママは…





“妊娠してたってウェディングドレスが着たい!!!!”








眩しいくらいの純白のドレスはやっぱり女の子の憧れなんだもん!!





私だって着たいんだもん~!!!!!








私の熱い…暑苦しい熱意に、真吾は根負け。



『じゃあ…安定期になったら結婚式しよ。そこで着れるだろ??』


『やった~♪♪』


『でも!!絶対に無理はしないことっ!!!』


『はぁ~~い♪♪』

『ホントに分かってんのかよ…』





私の浮かれっぷりに、ため息を深々しくつく真吾。




『大丈夫だってばっ!!信用しなさいっ♪♪』


『倖知の“大丈夫”ほど不安なものはないんだけど…』





聞こえませ~ん♪♪






それからの私たちは式場探し。






時間もかけてられないし、色々出掛けられるほど私もつわりで体調が良くなかったから

本屋さんで雑誌を大量買いしてリサーチリサーチ!!!






と言っても…




私が1人で“あーでもない、こーでもない”って騒いでて、
真吾は散らばった雑誌の片付け係のよう…。。。



ま、いっか♪
こんな私たちも、無事に式場を決め、


打ち合わせ帰りの車内で運転している真吾の横顔を眺めていた…。





切れ長の瞳…。
長いまつげ…。
薄い唇…。
私がリクエストしたブラウンの髪…。






し あ わ せ っ♪♪





ヤバい…ニヤけてきちゃう…。




視線に気づいた真吾が私の方を向いた途端、眉間にシワがはいる…。





『なに?人の顔見てニヤニヤしてんの!?』



まるで不審者を見る眼差し。

そりゃそうだよね、隣で1人ニヤついつる嫁がいたら、不気味だよね…私もそう思う。






けどさっ♪♪




『真吾~??』


『だから、なに!?』


『好きっ♪♪』


『―――…。。』





ん??いきなり真吾は黙っちゃった。




耳の先まで、まるでホントの茹でダコみたいに真っ赤!!






ま さ かっ ♪♪



ニヒッ♪♪♪






『照れてるの??真吾く~ん、聞いてますか~???』


『ぅっ、うるさいっ!!!』





いつもの仕返しとばかりに おちょくる私に、ムキになって怒る真吾。





まったく、どっちが子供なんだかっ。




かわゆいっ♪♪♪