薬指~未来への誓い~

『由樹…申し訳ないけど…』


はっ!?
申し訳ない??



なんで?なにが?


真吾なりに帰宅を促したつもりなのだろうが、私にはその言葉の意味が理解出来ない。

招待もしてない人が勝手に来て、それを迷惑だと感じる事が申し訳ないということなの!?




『帰れってこと?』

明らかに不機嫌な顔つきで由樹は言葉を続ける…



『どうせ、あんた達はうまくなんか行かないわよ!!』




捨て台詞のように言葉を吐いて私達に背を向けた。






せっかくの挙式。


最初から、なんでこんな想いをしなくちゃいけないんだろう…




私は苛立ちを隠せないまま挙式の準備が整ったと呼びに来てくれたスタッフの方と控え室に戻った。





ついさっき、幸せに満ち溢れたキスをした控え室。



もう一度控え室に立った私達にはそんな幸せな空気はなく…




無言のまま立ち尽くしてる私に真吾は申し訳なさそうに声をかけてきた。




『嫌な想いをさせて、ごめんな…。今度由樹にはハッキリ言うから』


『また会うんだ…』





言い訳をされたくない。




それに…由樹とまた会えば由樹の思うつぼになるようで嫌なんだもん。



『誤解しないでくれよ…俺は倖知と、お腹にいる子供といたいんだ!そのために、倖知に嫌な想いをさせる奴とはハッキリ縁を切りたい。
俺は必ず倖知をまもるから』




またこの瞳…。
吸い込まれそうなくらい力強い瞳…。




ズルいよ……
ズルいよ、真吾。




私はこの瞳にいつも“No”とは言えないんだ…。




あなたが
好きだから…――






『ホント?』

『あぁ、ホントだよ。それに、それを今から誓うんだろ?俺は心から誓えるから』



そうだよね、今から誓う。

真吾と共に生きてゆくと…
愛し続けると…。





『分かった。大人げなく怒ってごめん。うっとおしいって思った??』



『倖知が謝る事なんてなんにもないよ』

私の目の前に立っている真吾の肩に頭を寄せると

真吾は黙って力強く抱きしめてくれた。


あったかい…な。




いれるんだよね?私。

この温もりの中で生きていけるんだよね…??



求めてばかりで
自分がこんなにどん欲だなんて知らなかったよ…。




『今から、すっごい楽しい幸せな式にしような』




私の頭を優しく撫でて優しい声で真吾は囁く。
真吾の腕に包まれたまま、コクッと一回頷いた。




私たちには“未来”がある。明るく温かい“未来”が待ってるんだ。




“好きな人と幸せになりたい”
たったこれだけの想いくらい……欲張りでいさせてください。





『まだ泣くなよ?せっかくのキレイな化粧が崩れるぞ?』


『泣いてないもん!ばか!』






ほら、いつもの冗談。

ほら、いつもの笑顔。

ほら、幸せな空間がすぐ戻ってきた。






私たちは…きっと一緒に笑っていられる………。


これからも

ずっと

ずっと…――







そう…だよね??
目の前には重厚な扉。

7月の挙式。


私がリクエストした一番好きなヒマワリの花のブーケ。



隣には、私より緊張してる私の大好きなお父さん。


私はバージンロードを歩くんだ。





挙式前に私はお父さんやお母さんにお礼も出来ずにいた。


ありがとうって伝えたいのに、照れくさくって言えなかったの。





『お父さん?緊張してるの?』

『そんな事ないよ』

そんな事ないよって言ってるくせに、さっきから額の汗をふいてるじゃん。

強がりなとこはお父さん譲りなんだな、私。




『お父さんと腕組むのなんて、何年振りかな』

『そうだな。小さい頃は膝によく乗ってたのにな』

『今度、乗ってあげようか?』

『重いから遠慮しとく』

『ひどいっ』



あ…、
お父さんが笑った♪
そう、今まで私を守ってくれたこの大好きな笑顔。



『お父さん?寂しくなる?』

『賑やかいのがいなくなるから静かになるな…』




どうせ私は“おしとやか”じゃありませんよ~だっ。



やっと分かった。真吾をこんなに好きになったワケ。



お父さんにそっくりなんだ。



いつもこうやって冗談ばかり言い合い、笑顔を絶やさない。




気付くの、ちょっと遅かったかな??



『お父さん、ありがと』



やっぱり顔を見て言えなかった!恥ずかしぃ~!!!!!!

『泣かないでよ?』


だって、お父さん黙っちゃったんだもん。
私まで泣いちゃうよ?


『泣かんっ』

ほら、また強がり。


扉を開けてくれるスタッフの方が、こんな父娘のやりとりを見て
クスッと笑ったのが見えて、私まで笑っちゃった。



そして…扉は開かれた。




深紅のカーペットがひかれた先には真吾が待っていて

お父さんの鼓動が、組んだ腕から伝わってきそうなくらい寄り添い一歩一歩、ゆっくりゆっくり、歩み寄る。



真吾の目の前に立ち、お父さんの腕を離した瞬間、涙ぐんだの気付かれちゃったかな?


お父さんと真吾は一礼を交わし、私は真吾の腕に手をかけた。



神の前に立ち、二人で誓う二人の未来。


薬指にはめたリングの刻印は…

『eternal love』

永遠の愛。



永遠の愛を誓うリングを伴えて
真吾は優しく私のベールを上げ、微笑んだ。





薬指にはまったキラキラ光るリングのように


私たちは光に包まれ輝きながらキスをした。






──…真吾?


今でもね、私胸を張って言えるんだよ。



あの日のリングに誓ったあなたとの永遠は私の心の全てだったよ。




あなたとの永遠を信じて、心の全てで誓ったんだ…。




永遠にあなたを愛し続けると…――









ねぇ、真吾?




挙式で誓った私たちの想いが…

こんなに早く崩れてゆくなんて、あなたは想像していたのかな?


私は今でも信じられないよ…。





神の前で永遠の愛を誓った私たちは…

私が妊娠中という事もあり、長時間は負担がかかると判断して決めた簡略化したプランの披露宴へ。



『緊張しちゃうよぉ~』

『そうか?俺はさっき人前でキスした方が緊張したけどな~』

『確かに…(笑)』



披露宴会場の扉が開かれ、入場しようとした瞬間…
私の目に映ったのは…


披露宴会場の席に座り、今まさに入場してきた私たちに真顔のまま拍手をしている



由樹の姿だった……。



どうして……

挙式のチャペルには由樹の姿は確かになかった。



それどころか…挙式前に顔を合わし帰宅を促した時に背を向け去っていった。



じゃあ、なぜ今ここに…?





『由樹さ…んがいる…』


ポツリと呟いた私の小声を真吾は聞き取り、真吾の笑顔も一瞬曇りをみせた。



驚きつつも、みんながいる以上足を止めるワケにもいかず、何もなかったかのように雛壇まで歩み、一礼した時に



『大丈夫だから…気にするな…』


真吾が私に呟き、私たちは顔を上げた。



でも…私の視界には、まるでそこにスボットライトが照らされてるかのように由樹の姿が映り続ける。



心の中で繰り返した


どうして…どうして…どうして!!!!





動揺する心を隠す為に笑顔を作り続け、絶やせない。



それでも披露宴は進行してゆき、私たちはキャンドルサービスで各テーブルを周り出した。



もちろん、仲良しの友人のいる席を巡った時には祝福の言葉が嬉しくて嬉しくて…。




けど、私の心の片隅に由樹がなぜここにいるのか…という事が消えず、心からの笑顔が出来ない。




薬指~未来への誓い~

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