薬指~未来への誓い~

『鼻血、付けないでね(笑)』


『ハイハイ…』




色気のない会話。


でも、顔がにやける…。


幸せだと…思ってしまう。





『ねぇ…真吾??』

『なに??』

『私の事好き??』

『当たり前だろ~』
『“当たり前”じゃなくて~、好き??って聞いてるんだけど…な』

『…愛してるよ』




私の額に真吾の吐息が触れる。




『俺と、ずっと一緒にいてください…』

『は??』

『2度目のプロポーズの…つもりなんだけど…』

『……』



涙が出ちゃうよ…。



けど、一緒にいてくれますか??と聞かなくちゃいけないのは…私。


今まで、真吾の心を傷だらけにさせた逃げてた私…。





『私と…

ブッ!!!!』



真剣に真吾の顔見て話そうと思ったのに~~~


まだティッシュの鼻栓付いてるし!!!!!




『こんな時くらい外してよね!!ばか!!!!』

『あ、ごめん。忘れてた~』




ちっとも、話が前に進まない……(泣)



でも、
私たちは一緒に笑ってる…




この今が、愛おしく感じる…。



未来が見れなかったから…
夢が見れなかったから…



私は真吾と一緒にいられない…と思っていた。



けど、違う。



失った夢も、未来も、私の勝手な妄想にしか過ぎない。





自分で自分を信じてあげなきゃ、誰が信じてくれるというのだろう…


自分で自分を愛してあげなきゃ、誰が愛してくれるというのだろう…




私の未来は…きっと目の前にある。

私の夢は…きっと目の前にある。





『…止まった』

ティッシュを片付けている真吾の胸に飛び込む。



『私…』



夢や未来なんて明確に言える程の事はないけれど…


あなたと、明日も明後日も笑って一緒にいたい…



それだけじゃ…



ダメかなぁ??



おじいちゃんとおばあちゃんになるまで、そう一緒にいれたら……。




だから、あなたがいなくちゃ、ダメなんだ…。




なのに、うまく言葉にならない。


言葉に出すのが怖い……。




『二度と離してやらん』




抱き締められると、私の顔は真吾の肩にある。



ココは私の場所!?



優しい温もりのある場所……





もう少し…

甘えさせてください…






誰だって、1人で全てを乗り越えられる程強くない。



孤独が怖くて、縋りつきたい時もある。



誰かの温かな手を借りたい時もある。







それでも



いつかは



生まれたての子馬のように自分の足で立ちたいと



前を向くんだ。





私たちは、きっと


似ているのかな…
ピンポーン…


『ハイ…』

『倖知ですけど…』

『えっ…』

『いきなり、ごめんなさい。今いいですか??』

『あ、ハイ』



翌週の週末。

私が会いに行った人は…


私がどうしてももう一度会いたかった人…。


ドアベルを鳴らしたのが、私だということに驚いた顔をして玄関を開けてくれたのは…


由樹。





自分勝手なのは分かってる…。


もしかしたら、由樹は私の顔なんて二度と見たくないのかもしれない。


実際、私だって最近まで由樹など顔も見たくないって思ってたんだから…。




自分が、真吾と仲直りしたから会いにきた…


この自分勝手な行動に言い訳などしない。


“じゃあ、代わりに死んで??”


私の元へ謝罪にきた由樹へ私が吐いた罵倒。



由樹の所へくる前に、私は真吾に頼んで毅に電話をした。



もちろん、毅も私からの電話にすごく驚いていた。



だんだん話ていくうちに、打ち解けてくれ、由樹との関係を聞いた。



私の所へ来た時、毅は由樹と付き合うと言っていた。




けれど、
私の家からの帰り道、由樹は毅に別れを告げたのだという。

真吾と私の関係をボロボロにさせた自分が、毅に甘えて幸せにはなったらいけない……と。


由樹のその決意は頑なで、毅は“待ってる”とだけ告げ別れたらしい。



『ごめん…』

『倖知ちゃんが謝る事なんかない!!
倖知ちゃんの気持ちを傷だらけにさせた俺たちの自業自得ってやつやし…』

『まだ、毅くんは由樹さんの事好き??』
『倖知ちゃんには申し訳ないけど…。由樹が好きや。
けど、メールも電話も出てくれんし、きっと俺だけの片思いだけどな』

『私、由樹さんに謝らなきゃ…』




私は、どれだけの人を道連れにしてきたのだろう…。


まるでアリ地獄のように…引き吊り込む。




幸せになる権利など、与えたり与えられたりするものじゃないのに…。



けど、今でももし、由樹が私たちへの事で暗闇にいるのなら…


手を、伸ばせる気がするの…。



今なら、由樹へ手を伸ばせる気がするから…。



『由樹さんの家、どこか教えて??』


自然と、もう一度由樹に会いたいと…毅に聞いていた。



『どうぞ…??』

『ありがと』



由樹の部屋は、私の二歳年上とは思えないくらい私の部屋とは違って大人びていた。


モノトーンな家具に差し色の赤。


机にはパソコンと、きれいに整頓された本。


部屋全体が、フワッとイイ香り。




『いきなり来てごめんなさい』

『そんな…全然平気』



もちろん、予想はしてたけど…

重~い空気。



でも!!
めげないもん!!




『あのさ…、ごめんなさい。私、由樹さんにヒドい事言ったよね…』


私の謝罪に由樹は驚いた顔をして言う。


『そんな!!私が…あんな事したからだもん!!倖知さんが怒るのなんて当然じゃん!!』



自分を、卑下するつもりもないけど…
確かに、由樹の行動には振り回されたと思う…。



『どうして、真吾なの??』

『え??』

『どうしてあんな行動になっちゃうまで、真吾のどういうトコが好きだったの??』




聞きたかった…。

どうしても
聞きたかった。


『あの…』


言いずらそうにする理由は分かる。



もし、本心を言ったとして

由樹はきっと、また私が逆上しないかどうか…不安なんだよね。




私だって…
奮起しない自信なんてないよ。




もう一度、前を向こうと思った。

けど、心にあったモノがキレイに忘れたワケじゃない。





まだ、由樹の前に立ってるだけで苦しくて、

自分の足で戻ってきたくせに



ホントはこの空間から逃げ出したい…。



でも、
もう一度真吾と共にいたいと願えた今、

“あの日”の由樹の気持ちがどうしても知りたい。




興味本位じゃないの。



“理由”が知りたい。



だから…
冷静に…冷静に。





『私は大丈夫。教えて??』


少し微笑んで、落ち着いた優しい口調で由樹を促す。


私は大丈夫…

自分に言い聞かせてる。




『私――…』

由樹は、私と目をあまり合わせないまま伏し目がちに話始めた。



『真吾…クンは』

『真吾でいいよ(笑)』


由樹と付き合ってた時も真吾は、とても優しかった。

でも、由樹はヤキモキも、束縛もして欲しい…と、真吾の優しさに物足りなさを感じた。


だから、真吾の気をひく為に、ただの男友達と遊んだ時の事を浮気をしたと嘘をついて、“フリ”をした。



『フリ…だけのつもりだったの…。けど…』



けど…、
真吾は怒るワケじゃなく、少しの注意の後…“おかえり”と、笑いかけて由樹の事を抱きしめた。



『私のワガママだって分かってたんだけど…怒ってほしかったの…』



怒らない真吾に、由樹は一層愛されてるかが…不安だった。

いたたまれない寂しさで、本当に浮気をしてしまった。




一度きりのはずが…二度…三度…気がつけば、繰り返し。




『“俺じゃないんだろ”って―…』



真吾に愛されたかった…
けど、その結果は真吾は遠くへ行ってしまった…。



真吾と別れて1ヶ月が経とうとした頃…由樹は妊娠をしていた。
『嬉しかったの…。真吾の子供かもしれないって―…』


『どうして真吾の子供じゃないって分かったの??』


由樹も真吾も、私に“真吾の子供じゃない”と言っていた。


『病院の検査でね、私は本当に妊娠初期だったの―…』


由樹が初めて病院へ行った時、内視鏡では赤ちゃんの袋さえ出来てはいなかった。


けど、尿検査等で妊娠してる事は間違いなく…。


まだ妊娠2ヶ月にも経たない頃だった。

病院の先生にも、“こんな初期に妊娠がよく分かったね”と驚かれたくらいだそう。



『私、真吾との最後なんて……』



由樹と真吾の肉体関係は…
妊娠する程の時期にはもう、とうになかった…。



『真吾との“最後”以降にも、生理来てたから分かってたのにね…、バカでしょ、私。。』


瞳に少し涙を溜めて苦笑いをした由樹に、何も言えなかった…。



『けど…どうしても、真吾が好きだったの…』


両手で顔を覆う。




由樹は真吾に、妊娠周期を偽って妊娠を告げた。