薬指~未来への誓い~

こんな私たちも、無事に式場を決め、


打ち合わせ帰りの車内で運転している真吾の横顔を眺めていた…。





切れ長の瞳…。
長いまつげ…。
薄い唇…。
私がリクエストしたブラウンの髪…。






し あ わ せ っ♪♪





ヤバい…ニヤけてきちゃう…。




視線に気づいた真吾が私の方を向いた途端、眉間にシワがはいる…。





『なに?人の顔見てニヤニヤしてんの!?』



まるで不審者を見る眼差し。

そりゃそうだよね、隣で1人ニヤついつる嫁がいたら、不気味だよね…私もそう思う。






けどさっ♪♪




『真吾~??』


『だから、なに!?』


『好きっ♪♪』


『―――…。。』





ん??いきなり真吾は黙っちゃった。




耳の先まで、まるでホントの茹でダコみたいに真っ赤!!






ま さ かっ ♪♪



ニヒッ♪♪♪






『照れてるの??真吾く~ん、聞いてますか~???』


『ぅっ、うるさいっ!!!』





いつもの仕返しとばかりに おちょくる私に、ムキになって怒る真吾。





まったく、どっちが子供なんだかっ。




かわゆいっ♪♪♪


新居は新築の三階建て。

そこの二階のカド部屋。

2LDKのアパート。





けっして広くない空間。
生活感なんてまだ微塵もない部屋だけど…
これからの私たちの時間がここで刻まれていく事という幸せで胸はいっぱいだった。







この部屋から私たちのこれからの未来が始まるんだ…。





『ただいま』って帰ってくる真吾を、





『おかえり』って迎える私…。





チュ~とかしちゃう??




お風呂先~??



ご飯先~??



そ・れ・と・も♪







―――…………。




真吾くん、私、妄想癖があるみたいです……。。





そして…

ついにやってきた挙式当時。




この日が私たちの未来を激動のものへと変えてゆく1日となった―――






この現実を


誰が望み

誰が願い

誰が…



“運命”だと




言うのでしょうか…―






私には


言えなかった…――


入籍の翌々日。
7月2日大安吉日。
私たちの結婚式。



私は妊娠4ヶ月。
お腹もちょっとふっくらして、お腹の子と三人で迎える真吾と共に生きてゆくと誓えるこの日に



私は胸の高鳴りを隠しきれないほど
幸せを感じていた。




目の前には眩しいほどの純白なドレス。


『キレイ…』

思わず息をのむ。



ドキドキと着替えを済ませ、ドレスに身を包まれた私…。




う゛………
ドレスに負けてそう…。。






控え室で1人座っていると、別室で着替えを済ませた真吾が来た。




あっ、タキシード姿。。





『七五三みたいだよ』







第一声がこれっ!?で自分で呆れちゃうけど…





素直にカッコイイ…なんて恥ずかしくって言えないや。





『ウルサイ…』


『どお?私のドレス姿♪』


『馬子にも衣装とは…このことだな。』


『ひど~~い!!!』








“七五三”だなんて私も言っておきつつ…





自分の事はすっかり棚上げ~。。

こんな時にさえ、冗談ばかり言い合って笑い合う。



私たちのペースは笑顔が絶えない。






でもね…





『ウソウソ。めっちゃ可愛い』


『少しは惚れ直した??』


『…ベタ惚れ』






私たち以外誰もいない控え室。




これから訪れると信じて止まなかった二人の幸せな時間を約束するかのように…



私たちはキスをした。






ただ…ただ…



幸せなキスをした。





幾度となく重なる真吾の唇に酔いしれそうになる…。





『倖知??』


『ふぁい??』




夢心地でフワフワ宙に浮いてる気分。。




『しっかりしろよ~??』



『もっかい~♪♪』






真吾にキスをせがむ。



ん~~っと背伸びして顔を近づけると真吾は手のひらで私の口をふさいだ。





『フガフガッ』




目が丸くなっちゃって夢心地から連れ戻された気分!!





『おあづけっ!!』





私は…







…ですか???


真吾は大笑いしすぎて涙ぐんでるし!!
ひどいっ!!!!






『もういいっ!!』




拗ねてやるっ!!!




『そんなにキスしてたらここで押し倒しちゃうだろ~が!!』





驚いて顔を上げると、また顔が真っ赤な真吾。


『照れるなら、言わなきゃいいのに…』

『ウルサイよ!!』



真吾、可愛い♪♪









私は、フンッて顔を背けてる真吾の頬に、チュッて軽く触れるだけのキスをした。



そしたらまた柔らかな暖かいぬくもりが唇に触れる…。








こんな幸せな時間が続いていくんだよね…。



そう信じていた。



そう願っていた。






私たちはまだ…


すぐそこまで来ていた悪夢の足音に気づいてなどいないまま――。。




そう…、少なくともこの時の私は……


真吾と出会え


真吾に見つめてもらえる


この“運命”を神様に感謝しながら



ただ…ただ…



幸せだったんだ…―――
挙式時間が迫ってきて




私たちは緊張の中、招待した友人たちが待つ前室へ向かった。






親族や友人たちの姿を見たら、緊張なんか吹き飛んで、少し歓談をしてにぎやかな雰囲気を楽しんでいたら…





隣にいた真吾の笑顔が一瞬にして強ばるのを 私は感じた。






『真吾?どうし…』

どうしたの?と聞こうとした矢先…少し甘い女の子の声が重なる。






『来ちゃった♪』


『……』






無言のまま立ち尽くしている真吾の元へ駆け寄ってきた1人の女の子。






『由樹…どうして??』







やっと、か細い声で言葉を出した真吾からは、私も何度となく聞いたことのある名前で…






その“由樹”と名乗る女性は…









真吾の………元彼女。











由樹とは、私と出会う以前に真吾が就職したばかりの頃に付き合っていた女性。





由樹の浮気で別れたが、真吾と復縁したいと言ってきて…




その由樹の意志を真吾は断ったものの、私と付き合いだしてからも何度となく連絡をしてきていた。





そのうちの何度かの由樹からの連絡を知り、私のヤキモチで真吾とケンカした事もある。




その度に、“俺を信じろ”と、まっすぐな瞳で見つめる真吾の愛情に私は、誰よりも愛を伝えてくれる真吾を信じて付き合っていた。



――なんて、きれいごとで……
本当は私が…私の心が真吾と離れたくなかった。。
不安を吐き出すように真吾とケンカしていたんだ。




けどね、そんな中由樹さんからの連絡もプツリとなくなり真吾と私の付き合いは平穏を保ってゆけた。





だからもちろん…、

結婚式の招待状を出していないどころか…、結婚する事すら伝えてなんかいなかったのに…。






『なんで…!?!?』



なんでここにいるんだ?…と、私も真吾も驚きを隠せない。






にこやかに笑みを浮かべる由樹の元へ1人の男の子がやってきた。






『俺も、やめとけって言ったんだけどな~。どうしても行くって聞かねぇんだよ』


やってきて話かけてきたのは毅(たけし)。毅は真吾の入社前からの友人であり、職場の同僚。



由樹が毅に、真吾と復縁したいと相談をしていた事を私も真吾も知っている。




だから、毅から真吾が結婚する事を聞いた由樹がここへきた…と考える他ないでしょう。




『ふぅ~ん。この人が真吾の奥さんになる人?この度はおめでとうございまぁ~す』


由樹さんは、私の顔を見て不敵に微笑む。



『帰ってよ、呼んでないでしょ?』


私は苛立ち、まっすぐ由樹さんの目を見つめ返した。



ここで怖じ気づく程、私の心は弱虫じゃないんだから!!



『せっかくお祝いしに来たのにぃ~』


猫なで声で真吾に視線を送る。



『帰ってもらうよね?真吾??』


帰れって言ってよ!