「この部屋には、あの子、若紫以外は近寄らないように言われているの…
貴女が見つかると面倒なのよ」

「助けたと…恩を売るおつもりですか…?」

「いいえ、別に…
ただ、貴女がワタクシの部屋で見つかると、貴女の大切なご主人様がいろいろと大変な事になるだろうと思って…
余計なお世話だったかしら?」

「…いえ…事を隠密に運ぶよう命じられておりました…
貴女様が機転を利かせて下さったおかげで…助かりました…」

「そう、それは良かったわ」

「しかし、しかし…先程の話とは別です!
あの少女しか近寄れないこの部屋なら、誰とも鉢合わせることなくロミオ様とお逢い出来るはずです!
私がロミオ様をここまで手引き致します…
どうか、どうか、ロミオ様の秘めたる想いに応えて下さいませ!」

「しつこい方は嫌われる…
それはいつの時代、どの場所でも、世の理ではないかしら?」


「姫様~」

「若紫…?
どこ…中庭にいるの?」


「…ロミオ様!?
こんな所にお1人で!
しかもそのような子供と手を繋ぐなど…」

「良いんだよ、庭を散歩していたら偶然この子に出逢ってね…
叔父上の娘、マリーもこの位の年齢だったなと思うと愛らしくて」



「あっ、姫様、御顔を隠して下さい!
急いで御簾の中に入られて!」

「若紫…と言ったかな?
良いんだよ、私は彼女に逢いに来たのだから」

「貴方が良くても姫様が良くありません!」


「…そなたがこの女の主、ロミオ殿か」

「貴女にこの名を口にしてもらえるとは、何という幸せな事でしょうか…
言葉を交わせなくとも、せめて御顔だけはと思い、この建物の中をうろついておりましたところを、まさか御顔だけでなく、こうしてお話まで出来るとは感激の極み」


「ロミオ殿、勘違いをしておられるようなのではっきり申し上げまする…
ワタクシは、そなたを特別扱いしてこのように姿見を許した訳ではない
…これは単なる偶然の仕業…
元より、この世の殿方達に興味はありませぬ…
己が身が可愛いなれば、帝の耳に入る前に即刻立ち去るが良いであろう」


「姫君、我が主君に対する度重なる暴言…
貴女こそ、許される身にあるとお思いか!」

「良いのだ、ジュリエット!
”郷に入っては郷に従え”
この区のルールは守らなければならない…
元より私の罪は、貴女に魅せられた時より負わされた物…
いかがして償えば良いのか見当も付きません」


「今宵の宴会…
イングランド区の第一皇子としての誠意を見せて頂きたい」


「なるほど…承知致しました…
必ずや貴女を満足させる事をお約束致しましょう」