「姫様、何かご入用の物はございませんか?」

「えぇ、特には…
あ、若紫、やっぱり喉が渇いたわ…
水を持ってきて下さる?」

「畏まりました、少々お待ち下さいね」


「ふぅ、若紫は可愛いから良いのだけれど、いつまで此処にいなくてはならないのかしら?
いい加減飽きてきたというのに…」



「異区の姫君、そんなに退屈でいらっしゃいますか?」

「誰かしら?
天井裏にいらっしゃるの?」

「驚かれないとはさすが…
お傍にお寄りしてもよろしいでしょうか?」

「別に構いませんわ…
女性の方だし…
今なら私付きの若紫も席を外しているから」


「では失礼します…
はじめまして、かぐや姫殿…
私は隣のイングランド区の第一皇子、ロミオ様の従者、ジュリエットと申します」

「あぁ、イングランド区から和平の使者がいらっしゃったとは聞いていたけれど…
それで、ワタクシに何か御用?」

「えぇ、実は和平交渉というのはこの平安区に入る為の口実なのです…
もちろん、本当に和平交渉は我が区の望むところで、今回それが成立してロミオ様も一安心しておられるところです
…しかし、ロミオ様の真の目的は…」


「ワタクシ…なのですね」

「…!」


「何を驚いたような顔をなさっているの?
ワタクシの噂は区内を越えて日本国全土に伝わっていると聞いたわ」

「さすが…御自分の立場を良く理解しておられる」

「さぁ、分かったなら部屋へ戻って皇子殿にお伝えなさい…
かぐや姫はどなたとも逢わぬと、結婚する気など微塵もないと」

「お待ち下さい、仮にもロミオ様は一区の皇子!
そのような仕打ちを受ける事はロミオ様が許しても私が許せません!
どうぞ、一目だけでも我が主とお逢い下さいませ!」

「我が区のトップ、帝にもまだ顔を見せていないワタクシが、それこそたかが一介の区の皇子に顔を見せろと?」

「…何たる無礼!
今の御言葉、例えロミオ様の想い人であったとしても許せませぬ!
貴女こそが、身分も地位も何も持たない、美しく生まれ育っただけのただの女性なのですよ?
帝に気に入られているからとて、貴女には何の力も権限もない…
さぁ、先程のロミオ様への侮辱の言葉、取り消してお詫びをなさい!」


「姫様、お水をお持ちしました…
どなたかいらっしゃるのですか?
何か御声が聞こえて参りますが…」

「若紫…大丈夫よ、気にしないで…
お水はそこに置いててちょうだい
…今は下がっていなさい」

「はい、分かりました」