光弘は走り出していた。


ぼう然とする余裕はなく、しかし何かを考える余裕もなかった。

とにかく階段を駆け下りた。



整形外科病棟の中庭、さっき皆が供えた花や線香の傍。


横たわっているその身体からは、赤い紅い血が飛び散っている。

光弘は言葉が出らず、一旦歩みを止めたが、恐る恐る足を進めた。



クリスマスの夕食時間。

どこの病棟も食堂で楽しそうに夕食をとっているので、看護師達も介助に回っていて人通りが少ない。


光弘は瑠璃子に手を伸ばした。

すると、瑠璃子が微かに動いた。



「…!
瑠璃…!」



「”朋香”は…雪のクッションがあったから…血も流さず苦しまずに逝けたのに…
…私はこうやって血だらけになって…苦しんで逝かなくちゃいけないのね…」


「バカ、喋るな!
今すぐ連れて行くからっ!!」


光弘は瑠璃子をお姫様抱っこした。

血という血が纏わり付いて、ヌメヌメして、滑りやすい。



「空へと堕ちた”朋香”と、地面へと堕ちた”私”…
やっぱり…私の…罪だわ…」


「そんな事ないよ…
…世界中の誰が許さなくても…
…俺が許すから…
…頼むから…もう独りにしないで…」


光弘は涙で顔面をクシャクシャにしながら答えた。