瑠璃子はゆっくりとフェンスに近付いた。


「瑠璃子…?」

光弘が不思議そうな顔をした。



「私もね、何度、自分の幸せを願ったか分からない。
もう良いんだって、自分に言い聞かせて。

だけど、駄目なの。
目を閉じれば、愛してはいけなかった人の面影が。
耳を澄ませば、追い詰めて死なせてしまった”彼女達”の囁きが。

駄目だ、駄目だ、お前は駄目だ…って。
お前だけ幸せになるなんて許せないって。

…それでも私は強欲だから、光弘と幸せになりたいなんて望んでしまっているの。
自分独りじゃ幸せになれないから、背負い込んでもらおうって。

私の存在が、皆を…
大切な人を駄目にするの…」


そして、


「”朋香”がね、空へと堕ちる寸前、私に言ったの…」





『 』

『 』

『 』

『 』

『 』






光弘の耳元でそう囁いてから、瑠璃子は光弘にkissをした。


そして5年前と同じ。

『朋香』と『雫』と同じ。


有刺鉄線をも乗り越えて、フェンスを登りきって。

ふわりと宙を舞うように、瑠璃子は地面へと堕ちていった。