その言葉を聞いて、光弘は『雫』と『朋香』の真意を探ってみた。


周りをめちゃめちゃに引っ掻き回した『雫』。

でも、その時には、もう既にあの結末を選んでいたのではないか。


雄一さんとの事で傷付いた瑠璃子を、俺に任せて。
林先生との事で傷付いた俺を、瑠璃子に任せて。


そうだ、最期の方では、『朋香』は『雫』に乗っ取られながらも、意識の奥深くでは記憶を共有していたのではないか。


今更、”朋香”の考えが手に取るように分かる。



笑顔の裏での、抑えきれない多重性。
残酷さと非常識な言動に振り回されて、誰よりも疲れていたのは本人達。
傷付けたくない人達を、自分自身から守ってあげられない非力さと歯痒さ。
全てを壊して全てから逃げ出してしまいたかったのだろう。


最期の最期に、本人達なりに片付けたつもりで眠りに着いたのだ。


そして『朋香』と『雫』の想い通りに、俺達は支え合ってこの5年間を過ごしてきた。

それが”朋香”からのクリスマスプレゼントだったんだ。



「瑠璃子、ありがとう。
ずっとその指輪を守っていてくれて。
瑠璃子の中に『朋香』と『雫』はずっといたんだね。
これからも、その指輪、大事に持っていてくれる?」


光弘の問いかけに瑠璃子は微笑んだ。


「そうしてね、そこのフェンスを登って、有刺鉄線をも握り締めて座って…
私の肩を押した反動で後ろに反り返って、”朋香”は空へと堕ちたの。」



それこそ、誰も知らなかった真実。

瑠璃子が5年間、自分の胸の中だけに留めておいた秘密。



瑠璃子は目の前で”朋香”が堕ちるのを目撃しただけでなく、自分の身体を利用されたのだ。


「誰かに…光弘に聞いて欲しかったの。
ただの自己満足な懺悔なんだけどね…」


フェンスに指を絡ませて、瑠璃子が呟いた。

そんな瑠璃子を光弘は後ろから抱きしめた。


「悪くない…
瑠璃子は悪くないから…!
だから、もう独りで罪の意識に苛まれないで…。
”朋香達”が瑠璃子を選んだ事には意味があるんだよ。
俺が今こうして瑠璃子を抱きしめられるように、”朋香達”が準備してくれてたんだよ…」


瑠璃子は背中越しに伝わってくる光弘の体温を感じながら、胸にぶら下がっている指輪をぎゅっと握り締めた。