いつものように冷たい風が吹く。


5年という短いようで長い、長いようで短い月日。


光弘と瑠璃子は、お互い、何と言いようもなしに支え合ってきた。


光弘は大学を卒業して、この林総合病院に精神保健福祉士として就職し、今は精神ケアマネージャーの資格取得を目指して勉強中である。

瑠璃子は朋香の死後、すぐに大学を退学して、今は林クリニックのデイケアに通っている。



2人は時間を見つけては、一緒に過ごすようにしていた。

それだけの時間を共有してきたが、瑠璃子は”朋香”との、ここでの最期のやり取りを、光弘にはもちろん、誰にも話した事はない。


光弘もそれを分かっているから、今まで聞かずにきた。

これからも聞くつもりはなかった。



あの日は雪が降っていた。

今日は雪は降っていないのに、あの日より寒い。



(早くホテルに行かなくちゃな)



光弘はそう思ったが、今日はある決意を胸に抱いていた。

それを口に出そうと思ったより一足早く、瑠璃子がポツリと喋り出した。



「5年前の今日、私と『雫』はここで最期の言葉を交わしたの…」


光弘は驚いた。


驚いたが、しかし、黙って瑠璃子の話を聞く事にした。