その時、真朝が、

「…美穂、『雫』の事、知っていたの…?」

と驚いたように聞いた。



「あ…その…
偶然…見かけたの。
『雫』と林先生が一緒にいるところを。
それからしばらくして、『雫』から電話がかかってきて…
『雫』の…まぁ『朋香』の家に…何度も行ったりするようになって…」

美穂がしどろもどろ答える。



「確かに僕と『雫』は、君達の想像とは違うだろうけど、あるラインを越えていると言えるね。
でも美穂ちゃん、君もそうだよね?」



林先生のその台詞に、光弘と美穂がカッとなった。


例え中身が『雫』であろうと、この男は”朋香”との関係を認めた。


さっき林先生が言ったように、理解しなければならない。

だけれども理性は別物のようで、どうしてもこの男を殴りたくてしょうがない。



一方、美穂は言葉に詰まってしまっていた。



「実は今、『朋香ちゃん』に『雫』という存在を知ってもらう事から始めようと、2人の接点を作っているんだ。
『朋香ちゃん』の中にいる『雫』としてではなく、似たような病気を抱えている1人の人間として『雫』を紹介した。
2人には文通をさせているんだ。
もちろん手書きはまずいからね、『雫』は僕のノートパソコンで手紙を打っている。
『朋香ちゃん』は『雫』に興味を持ち始めているよ。
少しずつ時間をかけて2人の波長を合わせていくんだ。

…さて、皆、言いたい事はこれで全部かい?」



そう言うと、林先生は床に置いていた紙袋を手に取った。


「これはね、『朋香ちゃん』の家の三段ボックスの一番下に入っているんだ。
僕が『雫』に用意してあげた物でね。
さぁ、もう喋って良いよ、『雫』」